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日外会誌. 121(6): 700-702, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(2)「夢を実現し,輝く女性外科医たち―求められるサポート体制と働き方改革―」 
9.女性食道外科専門医の立場から考える働き方改革

九州大学大学院 消化器・総合外科

木村 和恵 , 胡 慶江 , 久松 雄一 , 茂地 智子 , 秋吉 清百合 , 安藤 幸滋 , 沖 英次 , 森 正樹

(2020年8月14日受付)



キーワード
働き方改革, 女性外科医

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I.はじめに
2024年4月から労働時間の法的規制が開始されることは決まっており,働き方改革が医療現場では現実的な問題となっている.また,男女共同参画は以前より医療現場でも様々な取り組みがされている.しかし果たして男女ともに満足できる状況になっているかは不明である.外科医の働き改革を実現するには,外科医の現状を把握し,今後数年のうちに何を変えていくのか,明らかにする必要がある.

II.外科医をとりまく環境
厚生労働省が公開しているデータによると,医師全体に占める外科医の割合は年々減少傾向を示している.2018年の医師割合を表1に示す.医師全体のうち外科医は8.6%,男性が9.8%,女性は3.6%である.外科の中では,乳腺外科の男女比はほぼ半数だが,心臓血管外科,胃腸外科,一般外科では,男女割合は9:1である.医師全体における外科医の割合は少なくまた女性の割合はさらに少ない1)
外科医師の年齢別の割合では,1998年には50歳以下が7割ほどだった.しかし現在では5割に減少している.外科医は減少し,高齢化が進んでいるのは明らかである.一方,2016年の女性医師登録医師数は21.1%であるが,同年の医学部卒業者および入学者数は35%であり,医師全体における女性の割合は増加している.
現状の医師割合・年齢分布のままでは,外科医はさらに減少することが予想されるため,診療内容が変わらない限り,外科医一人一人の負担は増加する.一方,働き方改革では長時間労働が是正されため,若手外科医数を維持または増やすことや外科医の負担を減らしながら医療の質を維持することが必要と考えられる.

表01

III.アンケートの実施と結果
Ⅲ-A目的:外科医が減少し,勤務時間短縮が求められている中,働き方改革として,現場の外科医が何を必要としているかを明らかにするため,九州大学消化器・総合外科の関連施設で無記名によるアンケートを実施した.
Ⅲ-Bアンケート項目:1.専門医やサブスペシャルティの取得の有無,2.仕事と私生活における満足度,3.外科医としてサポートしてほしい内容(研修内容,環境)とその実現に向け必要と思われること.
Ⅲ-Cアンケート結果
回答者は170名,男性155名(91%),女性15名(9%).年齢は①卒後5~10年,②卒後10~15年 ③卒後16~20年,④卒後20~25年,⑤卒後26~30年に分類したところ,④が27%で最も多く,次いで②が21%だった.
アンケート項目1:外科専門医は約9割が取得していた.未取得の理由としては,多くは経験年数の不足であり,男女で取得率に差はなかった.サブスペシャルティについては,全体では67%が取得しており,女性は半数が取得しており,未取得の理由は経験年数などの資格不足だった.
項目2の結果は図1に示す.5段階評価で,左側が不満で右側になるほど満足度が高くなるが,年齢が高くなるほど満足度は高く,若い人ほど不満が多い,という結果だった.満足している理由は,①手術の経験や専門医を取得した,という手術技術に関することが多く,②同時に安定した生活,仕事と子育ての両立ができている,という意見だった.いわゆるワークライフバランスの充実が満足度の高い理由だった.一方,不満の理由としては,給料や休日などの環境面の問題や手術経験が十分でないこと,専門医が取得できていないことなど様々だった.
項目3の結果として,手術経験(25%),専門施設や大病院での勤務(25%),また給料(10%)や勤務形態の見直し(15%)などが必要な項目として挙げられた.そのうち女性医師の意見では,手術経験や専門医取得,給与や休日,育児支援などへのサポートを必要としていた.育児支援に関しては男性からも意見があり,結果的には男女で内容に差はないことが明らかとなった.その実現には,①タスクシフト,②勤務体制(時短勤務,交替制など)の導入が欠かせないという結果だった.

図01

IV.食道外科専門医としての立場から
食道外科医は外科専門医,消化器外科または呼吸器外科専門医を取得後に取得可能な専門医である.食道外科手術は,他の消化器癌に比べて手術時間が長く,高度な手術手技を要求される.また,周術期管理においては,既往症や手術侵襲による合併症により患者に関わる時間は長くなる.食道外科専門医を取得するには,専門施設での修練が必要であると同時に手術手技取得のための研鑽などの時間が必要である.女性外科医には比較的ハードルが高く,現在認定されている食道外科専門医は著者を含め2名のみである.食道外科に興味を持つ女性外科医が躊躇なく食道外科という選択が可能となるには,上記アンケート結果のようにタスクシフトや勤務体制などの新たな導入による働き方改革が実現されることが必要かもしれない.

V.おわりに
男女かかわらず現場の外科医は,専門性の向上が可能な環境とライフイベントにおいて無理のない環境,同時に待遇面などの改善が必要と考えている.女性医師,若手医師を増加させるためには,医師以外の医療従事者への大胆なタスクシフトやAIの活用も重要と考えられる.医師の働き方改革を進めるには,女性医師のみならず男性医師も含めた医療界全体の働き方を考える必要があり,今まさに具体的な実効性をもって各方面から実践して行く時であると思われる.

 
利益相反:なし

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文献
1) 厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/18/index.html

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