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日外会誌. 121(6): 653-655, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「夢を実現するためのキャリアパス・教育システム」 
3.若手外科医が考える肝移植外科医育成のために求められる教育システム

1) 熊本大学 小児外科・移植外科
2) 熊本労災病院 小児外科・移植外科

嶋田 圭太1) , 猪股 裕紀洋2) , 伊吹 省1) , 磯野 香織1) , 本田 正樹1) , 山本 栄和1) , 菅原 寧彦1) , 日比 泰造1)

(2020年8月13日受付)



キーワード
肝移植, 執刀, 外科医養成, 多施設共同, 教育プログラム

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I.はじめに
肝移植は不可逆性肝疾患の唯一の根治治療として一般化されつつある.術後管理を含めてなお外科医への負担が大きい領域であり,その継続のためには次世代を担う若手の育成が望まれる.しかし,単施設で若手の育成に十分な症例を有する施設は限られており,国内での普遍的育成に課題がある.私は,肝移植外科医を目指す者として,国内初の多施設間協力型肝移植外科医育成プログラムであるSNUC-LT(Six National University Consortium in Liver Transplant Professional Training)プログラムで履修を終えた.本プログラムでの修練を振り返り,これからの肝移植外科医に求められる教育システムについて考案した.

II.SNUC-LTプログラムとは
SNUC-LTプログラムは,平成26年度に文部科学省から「課題解決型高度医療人材養成プログラム:高難易度手術領域」として公募され,採択された5年間の事業である.肝移植外科医だけでなく,移植コーディネーター,肝移植病理医の育成も含めており,連携6大学(熊本大学,岡山大学,長崎大学,新潟大学,金沢大学,千葉大学)と,指導連携施設として京都大学,国立成育医療研究センターを含んだ8施設からなる多施設協力プログラムである.志願した若手外科医が連携大学から履修生として集い,3年間履修する.

III.SNUC-LTプログラムの修練内容
本プログラム外科医コースの内容は手術手技と知識習得の2本立てで構成されている(表1).
手術手技の修練は,1)自施設移植手術実習,2)国内他施設移植手術実習,3)ブタ脳死肝移植手術実習,4)動脈吻合ハンズオンセミナー,5)国外脳死臓器摘出実習コースや移植施設派遣実習で構成されている.他施設移植手術実習は,それぞれの施設の特徴を共有でき,high volume centerである指導連携施設で確立された技術を見学できる.ブタ脳死肝移植手術実習は,肝移植特有の手術手技を実際に近い状況で経験できる貴重な実習である.動脈吻合ハンズオンセミナーではマイクロサージェリーを練習でき,肝動脈吻合の技術向上につながる.
知識の習得については,1)病理WEBカンファレンス,2)SNUC-LT独自開催の講演会,3)Meet-the-expertセミナー,4)学会や研究会との共催セミナー,5)国外での教育コース派遣,から構成されている.病理WEBカンファレンスは各施設で悩んだ症例や稀な症例をvirtual slideで供覧し,肝移植病理のエキスパートに診断を仰ぎ,多施設間で共有できる.Meet-the-expertセミナーでは,手術時のピットホールや各施設の工夫やこだわりについて学ぶことができる.

表01

IV.自身の成果とプログラムの課題
私の履修実績は以下の通り.他施設実習は国内9回,国外3回(Cleveland Clinic, Asan Medical Center, Seoul National University Hospital)で,21例(うち脳死移植7例)の肝移植手術を実習した.ブタ実習は履修中毎年2回(計6回),履修後は指導役として3回参加した.動脈吻合ハンズオンセミナー4回,病理WEBカンファレンス26回,SNUC-LT講演会6回,Meet-the-expertセミナー2回,欧州臓器移植学会の育成コースに2回参加した.
本プログラムの履修を終え,履修前は執刀機会がなかったが,自施設での肝移植ドナー手術や肝動脈吻合で部分的な執刀機会が得られるようになり,ブタ脳死肝移植実習では指導的前立ちを務め,手術手技の上達を実感できた.
本プログラムにより,技術面,知識面ともに多様なコンテンツでバランスよく修練できた.他施設実習は少ない移植症例を多施設間で若手外科医の教育・経験として共有でき,単施設で十分な症例を経験しづらい状況を解決する方法として有用であった.一方,移植手術数の施設間差により履修後のアウトカムにバラツキがあり,また,教育プログラムとして,「手術手技の上達度」や「知識の習熟度」の到達目標やアウトカム評価の客観的な設定が困難であった.

V.修練プログラムについての提言
肝移植手術は症例数が少なく,かつ高難易度手術のため,On-the-job Trainingは難しい.また,長い手術であり首尾貫徹の執刀はハードルが高い.これらの打開策として,肝移植手術をパートごと(例:レシピエント手術の全肝摘出,肝静脈・門脈再建,動脈再建,胆管再建など)に分けて修練し,執刀することを提案する.効率的であり,指導医としても執刀機会を与えやすいのではないだろうか.動脈吻合のようなハンズオンセミナーは効率よく修練できる良い例である.学会等による手技の保証(セミナー参加証明など)があれば,指導医が若手に執刀機会を与える際の判断材料になる.ドライラボやウェットラボは開催しやすく,学会主導セミナーの拡充を期待したい.また,海外の既存コースは高価であるが内容が充実しており有用である.
本プログラムの手術手技修練コンテンツは移植手術全体の把握(自施設実習,他施設実習,ブタ自習),部分的な手術手技の習得(動脈吻合ハンズオンセミナー),移植手術のピットホール学習(Meet-the-expert)の要素があり,バランスよい構成となっている.これらのコンテンツを参考に,指導医が肝移植の部分的な執刀機会を与えてよいと判断できる段階を目標とした学会主導の教育プログラムの構築が望まれる.
また,本邦では周術期管理や合併症への対応も肝移植外科医が担う部分は大きく,本プログラムにあったコンテンツや,欧州臓器移植学会のコースにあるような網羅的なコンテンツがあると若手外科医は効率よく学習できる.

VI.おわりに
本邦の現状に沿った肝移植外科医の教育システムは,医療の質を担保しつつ少ない症例を最大限に教育に活かすことができ,執刀の準備段階まで若手がモチベーションを保ってstep by stepで上達していることを実感でき,モチベーションを保てるコンテンツで構成することが重要である.専門医制度や技能認定の仕組みを模索すると共に,国内の学会や肝移植施設全体で連携した教育プログラムの確立が望まれる.


利益相反:なし

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