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日外会誌. 121(6): 647-649, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「夢を実現するためのキャリアパス・教育システム」 
1.私の目指す乳腺外科医

1) 札幌医科大学 消化器・総合,乳腺・内分泌外科
2) 東札幌病院 ブレストケアセンター

空閑 陽子1) , 九冨 五郎1) , 今村 将史1) , 島 宏彰1) , 西舘 敏彦1) , 沖田 憲司1) , 永山 稔1) , 信岡 隆幸1) , 木村 康利1) , 大村 東生2) , 竹政 伊知朗1)

(2020年8月13日受付)



キーワード
札幌医科大学, 乳腺外科, 後期研修

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I.はじめに
今回,第120回日本外科学会定期学術集会特別企画にて貴重な発表機会を頂いた.後期研修中の立場から,乳腺外科を志したきっかけ・今後の目標について述べる.

II.現状
私は2015年に札幌医科大学医学部を卒業し,現在所属している教室の教育関連施設である市立室蘭総合病院にて2年間初期臨床研修を行った.初期研修終了後,母校の消化器・総合,乳腺・内分泌外科にて後期研修を開始し,後期研修2年目より現在まで教育関連施設である東札幌病院に勤務している.

III.外科を志したきっかけ
学生時代の臨床実習で最初にローテートした科が現在所属している教室であった.初めて手洗いをしてガウンを着用し,術野に入り手術に参加したのが乳腺チームの手術だった.他チームも含め術中の先生方の雰囲気や真剣な姿・手技を見て,私も将来手術のある科に進みたいと強く感じたことを,今でも鮮明に覚えている.

IV.乳腺外科医を目指した理由
私は大学へ入学した頃から,医師として自分が女性であることを少しでも活かしたいと産婦人科志望であり,それ以外の科を考えたこともなかった.やはり女性にとってデリケートな診療科を受診する際,担当医師が男性か女性か気になる女性は多いと思う.そういう理由もあり産婦人科志望の中,臨床実習で現在所属している教室をローテートし,女性の患者を中心に診療するのは産婦人科だけではないということに気がついた.また,北海道には2020年8月現在,女性の乳腺専門医は15名である.この人数は首都圏と比較するととても少なく,北海道という広い土地柄を踏まえても充足しているとは決して言えない状況である.自分が乳腺外科に進むことで少しでもこの状況に貢献できる可能性やその需要,そして何より教室の先生方の手術に対するこだわりや診療のあり方に引かれて入局を決意した.

V.医師となって実感したこと
初期研修を終えた後,大学病院で後期研修をスタートした.乳腺チームだけではなく,他の同期と同じように上下部消化管チーム(2カ月ずつ),肝胆膵チーム(3カ月)もローテートし,関連施設で1カ月小児外科も研修した.やはり体力的・精神的に若干辛い時期もあったが,他チームもローテートすることで腹腔鏡手術のカメラ持ちの経験や,術後など全身管理をする上で必要な知識を身につける機会を得ることができ,これらは乳腺外科単独だとなかなか触れることのできない内容でもあり非常に有意義な時間であった.そして1年間苦楽を共にした同期には様々な面で助けられ,絆も深まった(図1).
後期研修2年目から現在まで,乳腺・甲状腺外科医として教育関連施設(東札幌病院)で研修している(図2).乳腺・甲状腺外科常勤2名,非常勤1名で年間140〜1,150件程度の手術件数であり,その7割ほどを執刀している.また道内でも有数の緩和ケア病棟を有し,緩和ケアに力を入れている病院でもある.私自身も周術期だけではなく,乳癌の転移・再発,終末期症例を担当し,麻薬投与量なども自分で調整している.当院で勤務するまで終末期症例を担当する機会がなく,正直最初は終末期症例を担当する上で戸惑う面もあった.しかし癌治療に携わる医師として終末期も診療することは重要であると考え,非常に貴重な経験をしている.また周術期の化学療法や内分泌療法だけではなく,転移・再発症例を自分自身で担当することで薬物療法に関して勉強する機会も増加した.私の考える乳腺外科の醍醐味の一つとして,この診断から手術を含めた治療,そしてその症例の最期まで携わるという流れを,一つの診療科で完結できるという点が挙げられると考える.

図01図02

VI.おわりに―乳腺外科医としての展望―
私の今後の乳腺外科医としての目標は,このどの局面においても,患者へ納得した医療を提供できるようにすることが私にとっての医師としての意義であり,そして私が担当して良かったと思っていただけるようになることである.外科医としての目標は,まずは上級医と同様のクオリティの手術を同様の時間で提供できるようになることである.また将来的にはオンコプラスティックな面も含め,自分自身で再建できるような外科医になりたい.女性にとって乳房を失うことは多大な喪失感があるということを,日々の臨床から感じている.癌の根治性を追求する姿勢はそのままに,見た目にも配慮できるような再建まで含めた手術を自分でマネジメントできる乳腺外科医になりたいと考える.


利益相反:なし

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