日外会誌. 121(6): 630-638, 2020
手術のtips and pitfalls
腹臥位の立場から
藤田医科大学 総合消化器外科 須田 康一 , 宇山 一朗 |
キーワード
食道癌, ロボット支援下内視鏡手術, 腹臥位, 反回神経, 神経外側の層
I.はじめに
当科では胸部食道癌に対する根治術式として,2006年より気胸併用腹臥位胸腔鏡下手術を,2009年からロボット支援下内視鏡手術を全国に先駆けて導入した1).
腹臥位胸腔鏡下手術では,手術操作が及ぶ縦隔の全領域に対して術者,助手,カメラ手が正対し,自然で無理のない手術操作を行うことができる.また,気胸により愛護的に虚脱した肺が重力により患者腹側に落ちて後縦隔の術野が良好に展開される,気胸圧により術野から生じる浸出が軽減される,浸出液が前胸部に排出されて術野をドライに保ちやすい,等複数の利点がある.特に上縦隔では,助手による“気管転がし”を併用することで,反回神経を良好に視認しながら徹底郭清を行うことが可能となったが,反回神経麻痺の発生頻度が左側優位で高かった(Clavien-Dindo Grade ≥I,75%)1).
内視鏡下手術用ロボットda Vinci Surgical System(Intuitive Surgical, Inc)は,従来の内視鏡外科手術の欠点を補完する複数の特長を有し,局所操作性を向上する1)2).導入当初は,エネルギーデバイスの止血力不足やロボットアーム・鉗子の干渉に悩まされ,しばしば手術が滞ることもあったが,double bipolar法やda Vinci軸理論,画面四分割理論を考案してこれらの困難を克服し,手技とセットアップの標準化を行った2).手技標準化の後,ロボット使用により胸腔鏡下食道亜全摘術後の反回神経麻痺を有意に軽減できる可能性を明らかにしたが,依然として左側優位の反回神経麻痺(Clavien-Dindo Grade ≥I,38%)の頻度が高かった1).
胃癌に対する予防的リンパ節郭清は,主要血管周囲自律神経外側の剥離可能層を指標とすることで高い再現性を持って過不足なく施行できる(Outermost layer-oriented approach)3).そのコンセプトが食道癌根治術でも成り立つとすれば,反回神経は鎖骨下動脈に対して最外側に位置する自律神経であり,その神経外側の剥離可能層を指標に,神経に過度な緊張をかけず過不足のない反回神経愛護的な予防的リンパ節郭清を行える可能性がある.本稿では,da Vinci Xi Surgical SystemとNerve Integrity Monitoring(NIM,Medtronic Xomed)を使用した神経外側の剥離可能層に沿った反回神経リンパ節郭清手技を中心に,ロボット支援下腹臥位胸腔鏡下食道癌手術のコツとピットフォールについて概説する.
利益相反
役員・顧問職:株式会社メディカロイド(顧問),
寄付講座:慶應義塾大学医学部腫瘍センター臨床腫瘍学寄付講座(大鵬薬品工業株式会社,中外製薬株式会社,小野薬品工業株式会社,株式会社ヤクルト本社),藤田医科大学先端外科治療開発共同研究講座(株式会社メディカロイド)
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