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日外会誌. 121(5): 497-502, 2020

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特集

改めて認識する小児急性腹症治療に対する外科医の役割

3.小児急性腹症の歴史

近畿大学奈良病院 小児外科

米倉 竹夫 , 山内 勝治 , 高間 勇一 , 木村 浩基

内容要旨
急性腹症とは,『発症1週間以内の急性発症で,手術などの迅速な対応が必要な腹部(胸部等も含む)疾患』とされている.小児急性腹症ではこれに年齢の因子が加わる.英語圏では1900年初めごろから“急性腹症”という言葉が使われ,小児では1939年にHerzfeldが“THE AUTE ABDOMEB IN CHILDHOOD”として753例の報告をしている.小児急性腹症の3大疾患としては虫垂炎と腸重積および種々の病態に伴う腸閉塞であるが,小児では幼少児ほど問診と理学所見からの情報は制限されている.この中で小児急性腹症の歴史を振り返ると,1980年以降の画像検査,特に超音波検査とCT検査の進歩が果たした役割は極めて大きい.さらに1990年以降の腹腔鏡手術の導入は小児急性腹症の治療においてエポックメーキングな出来事と言える.ここでは小児急性腹症の診療の歴史を述べるとともに,虫垂炎・腸重積などの主な小児急性腹症の各疾患における診療の歴史についても追記する.

キーワード
小児, 急性腹症, 診断, 治療, 歴史

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「Ⅲ.小児急性腹症に対する治療の歴史」の「1)虫垂炎」の文中に誤りがありましたので、訂正してお詫び申し上げます。

【 誤 】
1989年にはMc.Burneyが
【 正 】
1891年にはMcBurney

I.はじめに
急性腹症の明確な定義はないが,本邦での急性腹症ガイドラインでは,『急性腹症とは,発症1週間以内の急性発症で,手術などの迅速な対応が必要な腹部(胸部等も含む)疾患』とされている.また一般的には,突然発症した急激な腹痛の中で緊急手術やそれに代わる迅速な初期対応を求められる腹部疾患群とされている.小児急性腹症も年齢こそ異なるものの,急性腹痛の中で外科治療を要する疾患群,として捉えられている.
“急性腹症”の言葉がどれぐらい古くから用いられているか,PubMed.govで“acute abdomen”や“acute abdominal emergency”を検索したところ,1915年にElder1)から“THE ACUTE ABDOMEN”の報告があった.小児急性腹症としては,1939年にHerzfeld2)が“THE AUTE ABDOMEB IN CHILDHOOD”として753例の報告をしている.その中では虫垂炎408例や腸重積107例など現在の急性腹症の疾患群について報告しており,虫垂炎では死亡率は12歳以下では2.4%,3歳以下では16.7%と,また腸重積の死亡率は14%と報告されている.一方,本邦において“急性腹症”という言葉が最初にいつ使用されたのかは検索し得なかった.
急性腹症の診療は,初期対応の遅れによる急速な症状悪化を防ぐために,迅速かつ的確な病態の診断と緊急の処置を行うことがその根幹となる.すなわち急性腹症に対する診療は,小児でも成人と同様に,その疾患の診断よりも病態が緊急か非緊急かを診断することが重要である.即ちまずprimary surveyとしてlife-threateningな病態かどうか,vital signであるA(airway),B(breathing),C(cieculation),D(dysfunction of central nervous system)を確認し,そのいずれかに異常がある場合には蘇生などの緊急処置を行う.次いでsecondary surveyとして,病歴や身体所見をとり画像検査などの各種検査を行い,緊急の外科手術などその後の治療方針を決定する.
小児急性腹症に対する診療の歴史を語る上で,近年における画像検査の進歩と腹腔鏡手術の導入はエポックメーキングな出来事と言える.ここでは小児急性腹症全般に対する診断と治療の変遷を述べるとともに,新生児を除いた主な小児急性腹症の各疾患における診療の歴史についても追記する.

II.小児急性腹症の診断
小児急性腹症の3大疾患は,虫垂炎,腸重積,腸閉塞と考えられる.このうち小児の腸閉塞をきたす疾患としては,腸回転異常症を含め消化管の捻転を伴う多種多様な疾患がある.いずれにしても小児急性腹症には年齢に特有の病態があり,年齢の因子は診療を進めるうえで大きな因子となる(表1).まず問診と理学所見にもとづき疾患の鑑別が行われる.問診としては,腹痛の発症様式,増悪・寛解の有無,痛みの質や程度,放散痛や随伴通の有無,嘔吐の有無と性状,発熱の有無,排便状況などの病歴が聴取される.さらに理学所見として,全身の状態,痛みの局在(圧痛点),炎症や感染所見,腹膜刺激徴候,腸管の蠕動音などの評価を行う.問診と理学所見の内容については,画像検査がなかった1900年代初めのElder1)やHerzfeld2)の報告でもほぼ同じ記載を認める.
急性腹症の診断に画像検査の進歩が果たした役割は極めて大きい.特に問診や理学所見からの情報を得ることが困難な小児急性腹症においては,画像検査の重要性は高くなる.腹部単純レントゲン検査は,超音波やCTなどの検査法が普及により診断的意義が少なくなったが,現在でも開腹手術の既往,異物誤嚥,腸音の異常,腹部膨満などがある小児急性腹症では診断的意義がある.超音波検査は簡便で,器機の進歩により解像度もあがり,またレントゲン被曝がないことから,小児の急性腹症のスクリーニング検査・精査・診断に幅広く使用されるようになった.超音波検査は,本邦では1950年頃から臨床検査として行われるようになり,1977年に機械式セクタ走査装置が,1979年に電子式走査装置が,その後もreal-time映像法が出現し,画質の改良により優れた解像力も得られるようになった.1980年以降には超音波検査は小児急性腹症の診断法としても用いられるようになった3).小児急性腹症のうち虫垂炎の超音波検査としては,1981年にDeutschら4)が最初の診断例の報告をしている.1986年にPuylaert5)が虫垂炎に対するgraded compression methodによる超音波検査の報告を行い,1989年には小児でもその有用性が報告されていた6).腸重積症の超音波検査としては,1978年にHoltら7)が重積腸管をtarget signとして報告している.以後,超音波検査は小児急性腹症の画像診断として広く行われるようになった.一方,CT検査も,臓器特異性がなく所見に再現性があること,さらにヘリカルCTの導入により検査時間も短縮し被曝も軽減したことから,1980年以降,小児急性腹症の診断に使用されるようになった.しかし小児では被曝に伴うcancer riskを十分配慮すべきとの提言のもと8),小児の腹痛症例に対する画像検査としては超音波検査を最初に行い,CT検査は外科治療を要する場合や超音波で確定診断できない場合に行われる.
侵襲的検査としては,急性腹症に対し1973年にGansら9)が小児に対し腹腔鏡を用いた検査を報告した.1990年代になり広く腹腔鏡手術が導入されるようになり,1994年にSchierら10)は画像検査で診断ができない小児の腹痛の診断に対し腹腔鏡検査は有用と報告し,1996年にStylianosら11)は小児の腹痛の診断に対し診断とともに引続き治療に移行できることからも腹腔鏡は有用であると報告した.

表01

III.小児急性腹症に対する治療の歴史
小児急性腹症に対しては個々の疾患毎にそれぞれ治療の歴史があるが,腹腔鏡手術の導入は小児急性腹症の治療に極めて大きな影響を与えた.腹腔鏡手術は1970年代後半から導入され,1983年にSemm12)が腹腔鏡下虫垂切除術を報告した.腹腔鏡の器具と手技の進歩により,1990年にはいり小児急性腹症に対しても腹腔鏡手術が幅広く行われるようになった10) 13) 14).2006年には成人領域ではあるがヨーロッパ内視鏡外科学会から腹部救急疾患に対する腹腔鏡診断および治療の推奨度も提唱された(表215)
以下,治療を中心に小児急性腹症を呈する5疾患の歴史について追記する.

1)虫垂炎
1735年に英国のAmyandが11歳の男児の鼠径部に脱出した膿瘍形成した虫垂を鼠径部切開で摘出したものが虫垂切除の最初の手術成功例である.1989年にはMc. Burneyが初期症状を捉え早期の開腹手術による24例の手術報告を行っている.虫垂炎の診療の歴史は,その診断を早期に行い予後を改善すること,すなわちnegative appendectomyを減らしかつ穿孔合併の割合を減らし,非手術症例では無効・再燃を,手術症例では術後の合併症を減らすことである16).近年の画像診断の進歩により正確な診断評価が可能となり,negative appendectomyは激減し,また抗菌薬の進歩により非穿孔性虫垂炎に対する抗生剤投与によるnonoperative managementも報告されるようになった17).さらに外科的治療としても,1983年にSemm12)が成人での腹腔鏡下虫垂切除術を初めて報告した.腹腔鏡虫垂切除手術(腹腔鏡手術および腹腔鏡補助下手術を含む)も導入され,1991年にはVallaら13)は465例の小児腹腔鏡下虫垂切除術の報告をしている.さらに穿孔性腹膜炎を合併した複雑性虫垂炎に対しても,初期抗菌薬治療を行い炎症が消退したのち腹腔鏡虫垂切除を行うinterval appendectomyも行われるようになった18).本邦では1996年に腹腔鏡下虫垂切除術が保険診療として認められ,小児領域でも広く行われるようになった.小児急性虫垂炎診療ガイドラインでも,腹腔鏡手術は虫垂炎の外科治療の標準術式として推奨度Bとなっている16).National Clinical Database(小児外科領域)の2016年のアニュアルレポートをみると,15歳以下の急性虫垂炎手術登録症例9,410例のうち腹腔鏡手術は6,989例と,約3/4の症例が腹腔鏡下に虫垂切除が行われている19)

2)腸重積
腸重積症の治療は,非観血的整復術としては1876年にはHirschsprungが液体注腸による治療を行い死亡率は23%と報告した.観血的整復術としては1871年にHutchinsonが幼児の初めての成功例を報告したが,当時の手術治療の予後は不良で死亡率は73%と報告されている20).1913年にLaddは手術治療による死亡率を45%まで下げ,さらにビスマスを用い注腸造影による腸重積症の診断を最初に行った21).当時は重積腸管が肛門まで達している症例も多く,Laddはこの注腸整復により重積腸管部分整復したのち傍正中切開による開腹手術を2例に行い,さらに3例目では造影下注腸整復も行った21).1927年に造影剤としてバリウムを用いた透視下での整復が行われ,以後,広く行われるようになった20).その後,透視下空気整復,ガストログラフィンによる注腸整復のほか,超音波下整復も報告された.観血的整復術としては開腹手術による整復術に対し,1997年にSchier22)が腸重積症に対する腹腔鏡手術による整復術を報告した.2007年にはBaileyら23)は開腹手術に比べて腹腔鏡手術による整復術が有用であったと報告している.

3)肥厚性幽門狭窄症
肥厚性幽門狭窄症の手術としては,1907年のFrédet’sの粘膜外幽門筋層縦切開・筋層横縫合手術の報告をもとに,1912年にRamstedtが現在も標準術式である粘膜外幽門筋層縦切開手術を報告した24).1918年にLaddはこの手術方法を用い肥厚性幽門狭窄症の死亡率を60%から15%に下げたと報告した21).以後,Ramsted手術は肥厚性幽門狭窄症の標準術式となったが,さらに1986年にTanとBianchi25)は臍孤状切開による,また1992年にAlainら26)は腹腔鏡によるRamsted手術を報告した.

4)メッケル憩室
メッケル憩室は症例の半数以上は4歳以下で,多くは下血,腸閉塞,憩室炎,腹膜炎,腸重積などの症状を呈し急性腹症として発症する.99m Technetium-pertechnateが異所性粘膜に取り込まれることをもとに,1970年にJewettら27)はメッケル憩室の診断として臨床応用した.メッケル憩室に対しては開腹手術による治療が行われていたが,1992年にAttwoodら14)は初めて腹腔鏡手術の報告をした.メッケル憩室は有症状症例でもその診断率は60%程度であり,腹腔鏡手術は治療も含めその診断にも有用とされている.

5)腸回転異常
新生児や乳幼児では中腸軸捻転をきたし発症することが多く,小児急性腹症の中でもその診断は極めて重要である.消化管造影にて診断されるが,1999年にYehら28)は超音波検査にて中腸軸捻転をwhirlpool signとして診断報告した.腸回転異常症の外科治療は,1936年にLadd29)が報告してから現在にいたるまで行われている.腸回転異常症に対する腹腔鏡手術は,1998年にBassら30)が初めて報告した.

表02

IV.おわりに
小児急性腹症の診療では幼少児ほど問診と理学所見からの情報は制限されている.小児急性腹症の歴史を振り返ると画像検査,特に超音波検査の進歩が果たした役割は大きく,CT検査も含め現在では急性腹症の診断はほぼ問題がないレベルに達したと考えられる.さらに腹腔鏡手術器具の進歩により,腹腔鏡手術は小児急性腹症の治療にも幅広く導入されるようになった.小児急性腹症の診療の歴史を振り返ると,迅速かつ的確な病態の診断と低侵襲的な手術の導入により,その予後は改善してきたということがわかる.


利益相反:なし

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文献
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