[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (7084KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 121(3): 301-305, 2020

項目選択

特集

大腸癌に対する内視鏡手術の進歩

4.右側結腸癌に対する腹腔鏡下体内吻合術―完全腹腔鏡下結腸右半切除術―

1) 大阪医科大学病院 がん医療総合センター・消化器外科
2) 大阪医科大学 一般・消化器・小児外科
3) 市立ひらかた病院 消化器外科
4) 大阪医科大学 三島南病院外科

奥田 準二1) , 田中 慶太朗2) , 山本 誠士2) , 大住 渉2) , 濱元 宏喜2) , 鱒渕 真介3) , 石井 正嗣4) , 内山 和久2)

内容要旨
右側結腸癌に対しては,中枢側リンパ節郭清・血管処理と腸管授動までを腹腔鏡下に行い,腸間膜処理と腸切除・吻合は体外で行う腹腔鏡補助下手術が一般的である.腸切除と吻合までも体内で行う完全腹腔鏡下手術には腸液による腹腔内汚染や的確な腸切除・安全な吻合など手技の困難性が問題点として挙げられている.筆者らは,完全腹腔鏡下手術の問題点を克服すべく,術前日の抗菌薬内服を含む適切な腸管前処置のもとに手技をシステム化して安全に適用している.完全腹腔鏡下手術では,腫瘍部への操作を最後に最小限にするので腫瘍部への操作を極力回避する“no-touch isolation technique”をより良く遵守できること,過剰な腸管授動も回避でき,小切開創の部位制限がなく,吻合法に修熟すれば体外よりも安全に吻合を行えるなど,癌手術としても低侵襲手術としても質が高くなる.とくに肥満や癒着・腸間膜短縮などで体外での腸切除・吻合が困難な患者に極めて有用で修得すべき手技である.

キーワード
完全腹腔鏡下結腸右半切除術, 腹腔鏡下体内吻合術, 右側結腸癌

<< 前の論文へ次の論文へ >>

I.はじめに
右側結腸癌に対する腹腔鏡下手術では,中枢側リンパ節郭清・血管処理と腸管授動までを腹腔鏡下に行い,腸間膜処理と腸切除・吻合は体外で行う腹腔鏡補助下手術が一般的である.しかし,同手術には表1に示す問題点がある.一方で,腸切除・吻合まで腹腔鏡下に体内で行う完全腹腔鏡下手術には,表2に示す問題点が挙げられている.筆者らは,完全腹腔鏡下手術の問題点を克服すべく術前日の抗菌薬内服を含む適切な腸管前処置のもとに手技をシステム化して安全に適用している.本稿では,右側結腸進行癌に対する完全腹腔鏡下結腸右半切除の要点を述べる.

表01表02

II.手技の要点
術前日にカナマイシン・フラジール内服による化学的腸管前処置と下剤による機械的腸管前処置を併用する.
1.ポート配置と切除後の小切開創部(図1
(丸数字はポートサイズmm)
2.中枢側郭清と血管処理の要点(図2
内側アプローチで中枢側D3郭清・血管処理を行う.Henleの胃結腸静脈幹に流入する副右結腸静脈の処理に注意する.頭側からのアプローチも有用である.ICA&V:回結腸動静脈,SMV&A:上腸間膜動静脈,Henle’s gastrocolic trunk:Henleの胃結腸静脈幹,ARCV:副右結腸静脈,MCA&V rt:中結腸動静脈右枝.
3.腹腔鏡下体内腸切除の要点(図3
回腸間膜処理ののち回腸切離し,次に横行結腸間膜・大網処理ののち横行結腸切離する.回腸切離を先行することで横行結腸切離部位の血行の判定が行い易くなり,良好な血流部位で横行結腸を切離できる.なお,血流判定にはICG蛍光法も有用である.
4.完全腹腔鏡下結腸右半切除(図4
最後に病変部腸管を授動して体内での切除を完了する.腫瘍部への操作を最後に最小限にするので,“no-touch isolation technique”をより良く遵守できる.
I-stump:回腸断端,T-stump:横行結腸断端.
5.腹腔鏡下体内吻合の要点(図5
回腸断端を腸間膜の捻じれがないことを腹腔鏡下に確認しつつ横行結腸側に順蠕動になるように沿わせ,回腸断端より1cm口側,横行結腸断端より8cm肛門側の腸間膜対側の腸管に小孔を開けてステイプラー(Signia60 camel)を挿入し,腸間膜を巻き込まないように腸間膜対側にて腸管を的確にステイプリングして吻合する.脂肪の厚い患者にこそ,この吻合は安全確実に行える.
6.ステイプラー挿入孔閉鎖の要点(図6
ステイプラー挿入孔より腸管内腔を観察し,出血なく吻合が確実に行えていることを確認したのち,ステイプラー挿入孔をv-lokで連続全層縫合して閉鎖する.v-lokを用いることで結紮を要せず,緩みのない連続縫合で確実な閉鎖が行える.3-0 PDSで漿膜筋層縫合を数針加え,腹腔鏡下体内吻合を完了する.

図01図02図03図04図05図06

III.手術成績
腹腔鏡下体内切除吻合が体外切除吻合に比べて術後回復などの短期成績が良好であることが報告されている1)2).長期成績についての質の高い報告は未だ少ない.筆者らは,2013年6月より開始し,これまでに150例を超える右側結腸進行癌に腹腔鏡下体内切除吻合を含む完全腹腔鏡下結腸右半切除術を施行したが,腹膜再発は認めていない.表3に示すように完全腹腔鏡下手術では,腫瘍部への操作を最後に最小限にするので腫瘍部への操作を極力回避する“no-touch isolation technique”をより良く遵守できること,過剰な腸管授動や吻合部の捻れを回避でき,吻合法に修熟すれば体外よりも安全に吻合を行え,小切開創の部位制限がなくNOSE(Natural orifice specimen extraction)に繋がるなど,癌手術としても低侵襲手術としても質が高くなる.

表03

IV.おわりに
現在,筆者らは,完全腹腔鏡下結腸切除を基本術式としている.とくに肥満や癒着・腸間膜短縮などで体外での腸切除・吻合が困難な患者に極めて有用で修得すべき手技と考える.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


文献
1) Feroci F, Lenzi E, Garzi A, et al.: Intracorporeal versus extracorporeal anastomosis after laparoscopic right hemicolectomy for cancer:a systematic review and meta-analysis. Int J Colorectal Dis, 28: 1177–1186, 2013.
2) Vergis A, Steigerward S, Bhoijani F, et al.: Laparoscopic right hemicolectomy with intracorporeal versus extracorporeal anastamosis:a comparison of short-term outcomes. Can J Surg, 58: 63-68, 2015.

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。