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日外会誌. 121(3): 294-300, 2020

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特集

大腸癌に対する内視鏡手術の進歩

3.RPS(Reduced port surgery)―細径鉗子を用いた腹腔鏡下大腸切除術―

がん研究会有明病院消化器センター 大腸外科

松井 信平 , 福長 洋介 , 長山 聡 , 小西 毅 , 秋吉 高志 , 長嵜 寿矢 , 山口 智弘 , 向井 俊貴

内容要旨
Needlescopic surgery(NS)は,外径2〜3mmの細径器具を使用した内視鏡下手術のことを指し,Reduced port surgeryの一種として注目されている.NSに関する報告は1998年から認められ,現在まで徐々に増加している.NSの利点として,整容面の向上と術後疼痛の軽減が挙げられる.また,手術展開は従来の腹腔鏡手術と同様であり,単孔式手術と比べ,術者のストレス軽減にもつながると考えられる.実際に,術後疼痛は標準腹腔鏡手術とNSの比較において,術後の鎮痛剤使用回数が少ない傾向にあった.また,長期予後の観点からも結腸癌・直腸癌のどちらにおいても,同等の結果であった.細径鉗子類の細さゆえの把持力の低下および術野展開の困難さが挙げられるが,適切なlearning curveで習得できるという結果も得ている.NSに特有の術中偶発症や術後合併症を起こさないために,器具の特異性を充分理解し,適切に使用すればより患者に負担の少ない腹腔鏡手術が可能となると考える.

キーワード
腹腔鏡手術, 細径鉗子, 大腸癌, Needlescopic surgery

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I.はじめに
腹腔鏡下大腸切除術がはじめて施行されてから四半世紀以上が経過した1)2).腹腔鏡手術は低侵襲で,整容性に優れた術式であるが,大腸癌の長期予後においても開腹手術とほぼ同等であるとの報告が全世界からされ,標準手術となりつつある3)5).本邦においても,1996年に早期大腸癌に,2002年から進行大腸癌に保険適応となり,急速に普及した.一方,さらなる低侵襲性と整容性の向上のため,トロッカーの減数や細径化を目的としたReduced port surgery(RPS)が注目されている.RPSには,トロッカーの減数を目的としたNOTES(Natural orifices transluminal endoscopic surgery),TANKO,トロッカーの細径化を目的としたNeedlescopic surgery(NS)といったものがこれまで報告されている6)8)
本章では細径鉗子を用いた腹腔鏡下大腸切除術についてその短期的および長期的予後結果も交え,その有用性,現状,使用の際の注意点について述べる.

II.細径鉗子手術の長所・短所
細径鉗子はGagnerらが提唱したのが最初とされるが明確な定義はない.しかし一般的には,主に3mm以下の細径器具を使用した内視鏡下外科手術と解釈されている9).細径鉗子には体腔内で合体して使用するタイプやそのまま使用するタイプなど,各社がさまざまに開発されていて,その器具の特徴に合わせた使用を適切に行うことも重要である.
細径鉗子の長所としては,ポート創の大きさ自体を小さくしても,その配置は通常腹腔鏡手術と同様であり術野の展開が同様に可能である,という点である.貫通する腹膜の腹壁破壊も通常ポート創と比べても小さく術後疼痛軽減効果は高いと考えられる.2〜3mmの創部に関して,患者からの術後疼痛の訴えはほとんどなく,刺入部の位置も自覚できないほどであり,刺入部直下の術後の腹腔内癒着や創部ヘルニアのリスクもない.また,5mmトロッカー刺入時に時々おこる下腹壁動静脈の損傷が細径鉗子では起こらない,というのも重要な利点の一つである.同損傷の発症は稀ではあるが,損傷時には無理矢理の凝固止血による皮膚の熱傷や手術時間の消費といった看過できない術中偶発症の一つであることは腹腔鏡執刀医にとっては周知のことであろう.さらに,コスト削減の意味でも重要な意味を持つ.通常手術で使用する5mmの使い捨てトロッカーは,1回の手術で数千円から2万円程度であるが,1本20万円台の再利用可能な細径鉗子と細径トロッカーを使用することで,数を積み重ねることでコスト便益が生じる.
一方でその鉗子特有の短所もしっかりと把握していなければならない.シャフトが細いため,鉗子の「しなり」が生じ,把持に支障を来す.また,鉗子の先端の把持部分が短く,臓器把持力の低下は免れず,対象臓器にもよるが,直接把持することにより臓器損傷につながる恐れがある.細径鉗子だけで手術する場合には,エネルギーデバイスは細径サイズのモノポーラーの電気メスのみであり,他のデバイスの使用はできない.
これらの短所をしっかり把握することで,当施設では5mmトロッカーを少なくとも1か所は使用したり,さらに,低位前方切除術の際は,安全な直腸切離のために,右下腹部の12mmトロッカーの使用も許容としている.あくまでNSの目的は術後QOLの改善であり,短期・長期予後に影響を与えるような危惧があるならば通常径鉗子・トロッカーの移行に躊躇ってはならないと考える.

III.細径鉗子腹腔鏡下大腸手術の実際
当院ではKARL STORZ Endoskope社の3mm把持鉗子を使用している(図1).腸管切除の際に腸管を取り出すために傷を延長するため,臍部は12mmトロッカーを使用するが,それ以外のトロッカーは右側結腸に対しては5mm1本と3mm2本,左結腸から直腸に対しては5mm1本と3mm3本で手術を行っている(図2).3mm鉗子は5mm鉗子に比べると幾分シャフトの剛性が弱く,腫瘍の大きい症例や腸間膜の重い症例では,腸管の把持や牽引に難渋することがあるため,そのような症例に対しては0-PDS糸(Ethicon Endo-Surgery社)で腸管の牽引を行うなどの工夫を行っている.それにより助手の2本の鉗子がフリーとなり,より良い術野展開が可能となる.
直腸癌手術における直腸切離の際は,5mmスコープを右下腹部の5mmトロッカーから挿入し,自動縫合器を臍の12mmトロッカーより挿入して切離を行う(図3).腫瘍が高い位置であれば,腸管クリップの装着も比較的容易であり,自動縫合器による1回切離も可能であるが,切離ラインが低くなる症例ではそれらが困難な場合もしばしばある.そういった症例に対しては,0-PDS糸で直腸を緊縛後に直腸洗浄を行い,屈曲可能な自動縫合器にて計画的に2回で腸管軸に直角になるように切離している.切離ラインがさらに低くなり,骨盤内のワーキングスペースが狭くなってくる場合,臍からの角度では腸管軸に直角な切離が不可能となる.したがって,右下腹部に12mmトロッカーに交換し,従来通り右下腹部より自動縫合器を挿入し,無理せず直腸切離を行う.また,腹会陰式直腸切断術や括約筋間直腸切除術の際は,標本は会陰からあるいは経肛門的に取り出すので,臍部は5mmトロッカーとし,スコープも5mmのものを使用し,腹部に標本摘出用の小切開創がないため純粋なNSとなる10)

図01図02図03

IV.細径鉗子腹腔鏡下大腸手術の手術成績と長期予後
手術短期成績および長期予後に与える影響を当院での結果をもとに解析した11)12).結腸癌手術においては,NS vs CS:193分 vs 200分(p=0.64),直腸癌手術においては,NS vs CS:214分 vs 238分(p=0.29),と有意な差は認めなかった.また,出血量および術後合併症についても有意差を認めなかった.NSの周術期に与える影響として,創痛の軽減があると考えられるが,CSの5mmトロッカー創も術後疼痛の訴えの多い点ではないことから,客観的にNSの効果を評価することは困難であるが,単純に術後の鎮痛屯用薬の使用を比較すると,NSの方が有意に少なかった.
さらに上述したような腹部に標本摘出用の小切開創のない腹会陰式直腸切断術や括約筋間直腸切除術に限って,その疼痛評価を行ったところ,術後5病日でのNumeral rating scale(NRS)は有意にNSで低かった(表1).今後は前向きのアンケートによる評価などを用いた前向き検討も考慮している.
また,5mmトロッカー創には術後創感染,電気メス処理による火傷が原因の創傷治癒遅延,腹壁癩痕ヘルニアなどの合併症,後遺症がしばしばみられたが,細径鉗子の創部は創縫合閉鎖が不要(カットバン貼付のみ)で,感染/創傷治癒遅延/ヘルニアは認めなかった.整容面の改善度の評価は小開腹創を含めた全体評価が必要で患者満足度の要素も加えた前向きのアンケートによる評価が興味深い.
長期予後についても,結腸癌・直腸癌ともに長期予後に与える悪い影響は認めなかった(結腸癌:NS vs CS,95.1% vs. 95.2%,p=0.23;直腸癌:NS vs CS,93.5% vs. 93.2%,p=0.92)(図4表2).NSは上記のとおり欠点があることは否めないが,大きい腫瘍や局所進行のT4腫瘍,リンパ節転移症例,術前治療導入症例における層別解析においてもNSが腫瘍学的に悪影響を及ぼすという結果では無かった.それらの再発形式においても同様に両群に差は無かった.
手術因子のうち予後に影響する因子としては,incomplete CMEや露出腫瘍への直接触知が挙げられる.細径鉗子は5mm鉗子に比べ先端が鋭であり,腸管損傷に注意が必要で手術手技においてはそれをいかに避けるかが重要である.NSはCSに比べ,十分な習熟が無いとそれらの危険因子に影響してしまう手術であり,通常腹腔鏡手術よりもlearning curveが必要であり,やや難易度が上がる手術である13).しかし,NSのそういった欠点を充分に理解したうえで安全に手術を行うことで,CSと同等の長期予後を得られることは,傷を更に小さく術後疼痛の軽減と術後在院日数の短縮をもたらすNSは大変有用な方法であると考えられる.

図04表01表02

V.おわりに
NSは特有の術中偶発症や術後合併症と,それを起こさないための器具の特異性を充分に理解し,適切な使用方法を心掛けなければならない.一方で細径鉗子を用いた内視鏡下手術は整容的効果,術後疼痛軽減の可能性があり,手術手技自体も導入しやすいことから,患者へのメリット・デメリットを充分に理解して使用すべきである.

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文献
1) Jacobs M, Verdeja JC, Goldstein HS: Minimally invasive colon resection (laparoscopic colectomy). Surg Laparosc Endosc, 50: 144-150, 1991.
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9) Gagner M, Garcia-Ruiz A: Technical aspects of minimally invasive abdominal surgery performed with needlescopic instruments. Surg Laparosc Endosc, 8: 171-179, 1998.
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11) Mukai T, Fukunaga Y, Ueno M, et al.: Needlescopic surgery for left-sided colorectal cancer. Int J Colorectal Dis, 29: 1501-1505, 2014.
12) 大野 吏輝,福長 洋介,上野 雅資,他:直腸癌に対するneedlescopic surgeryの手技と短期成績の検討.日消外会誌,47: 83-89,2014.
13) Miki H, Fukunaga Y, Nagasaki T, et al.: Feasibility of needlescopic surgery for colorectal cancer: safety and learning curve for Japanese Endoscopic Surgical Skill Qualification System-unqualified young surgeons. Surg Endosc, 2019 May 13. doi:10.1007/s00464-019-06824-9. [Epub ahead of print]

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