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日外会誌. 121(1): 3-4, 2020

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先達に聞く

「統合」を掲げて歩んだ四半世紀

日本外科学会名誉会長,日本医学会連合/日本医学会会長 
堺市立病院機構堺市立総合医療センター理事長 

門田 守人



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昨年の11月で大阪大学の教授に就任して25年が過ぎた.気がつくと,四半世紀が過ぎたと言うことである.改めてその頃のことを思い出し,教授就任当時考えたことを紹介する.
私は今の時代背景より「分化と統合」の「統合(integration)」を教室のキャッチフレーズとしたいと思います.時代の流れかも知れませんが,個人と,個人の属する組織の関係が徐々に薄れていくように感じております.教室内でも,いつの間にか教室としての仕事が雑用と呼ばれるようになってしまいました.自分の研究以外,自分の仕事とは感じられなくなっているようです.このような時代なればこそ敢えて「統合」を挙げました.見方によれば,人間の本性へのチャレンジをテーマにしたのかも知れません.教室内では研究室間の壁の撤廃・再統合,大学レベルでは大講座制への道の追求,関連病院間の情報統合のためのネットワークの構築,学会関係では無制限に増え続ける研究会・学会の整理・統合などの難しい問題が非常に多くございます.専門分化,あるいは組織の細分化は自然の流れで,これにはエネルギーはあまり必要ではありません.逆に,これを統合の方向に導こうとする時には莫大なエネルギーが必要となります.しかし,このエネルギーは消費されるのではなく,実は組織としての内部エネルギーを貯蓄することに他ならないのであります.(「阪大二外同窓会会誌1995」30:1-6)
あのタイミングで「統合」を教室,そして自分自身の行動目標として掲げたのは欧州連合発足の影響が強かったと思う.戦争と分割・分裂を繰り返してきた人類の長い歴史の中でこれほど素晴らしいことがあったであろうか.力による征服ではなく,国と国とが条約で繋がり,目的達成のためにその条件を定め,一つ一つの問題の解決を図り,統合に成功した.欧州連合は1991年に設立に合意,翌年に条約が調印され,1993年11月1日に発足した.ヨーロッパにおいて国単位で統合が進んでいる状況で,われわれが直面していた大学内,医学界内の課題などは本当に小さなことで,できないはずはないと強く信じ,敢えて「統合」を選んだのである.
具体的には,まず,医局内の研究体制の再編に着手し,それまでは病理研,生化研,免疫研等個々の研究室が独立した体制で教室運営がなされていたものをセンター化することで,臨床研究の更なる推進を目指した.当時は,研究室単位で人の配置がされていたために,臨床教室として基本となる臨床グループ別人員数のアンバランスが続いていた.そこで,人の配置は研究室ではなく,臨床グループ単位とした.そうすることによって,臨床現場の問題点を研究テーマとして取り入れる事が可能になると考えた.そして,各々のテーマについての実験的研究はそれまでの古い研究室体制を廃止し,一つの中央実験室を新設して行うことした.そこでは異なるグループの研究者が実験手法別に同じ実験室,実験台で実験することとなり,研究グループの枠を越え実験のノーハウが伝わり指導し合える体制となった.そうすることで,論文執筆ではお互いがグループを超えて共著者となり,実質的に統合が進んだ.次に,教室内の統合を医局関連の全病院に広げ,関連病院全体のネットワークを構築した.そこに臨床外科共同研究会を立ち上げ,その下部組織として研究テーマ毎に分科会を設け,教室と全関連病院を繋いで共同研究が継続して推進される体制とした.
大阪大学では,以前から大外科講座を目指す動きはあったが,なかなか具体化しなかった.それが動き出してきたのは,1999年の大学院重点化の時で,講座名を第一外科から機能制御外科,第二外科を病態制御外科に変更した.診療科名については,その翌年医学部附属病院の診療科が再編される際に,訓令に基づく正式な外科診療科名は「外科系科」一つに統合され,心臓血管外科や消化器外科等は病院内で自由に変更できる院内診療科とした.すなわち,診療科のスタッフは異なる講座に属する医員で構成され,縦糸と横糸の関係で講座と診療科が編成されることとなった.更に,講座は2004年から始まった国立大学法人化の時に,機能制御外科と臓器制御外科にその他の外科系講座も加え,一つの大講座「外科学講座」が誕生した.そして,心臓血管外科,呼吸器外科,消化器外科,乳腺内分泌外科,小児育成外科は学内部門の4部門として文部科学省に承認された.ここで他大学に先駆けて大外科システムが完成した.
このような形で,医学系研究科内の統合を進めてきたのであるが,その後大阪大学を離れ,がん研有明病院長,がん対策推進協議会会長,日本医学会会長等の職責を経験し,徐々に社会に広く目を向けることが求められるようになると,わが国全体に多くの課題があることが見えてくる.例えば,日本医学会の関係では,これまでノーベル賞受賞数も米国に次ぎ2位で研究力を誇っていたはずの日本であったが,最近の研究論文数は減少し,研究力の低下が大きな課題となっている.また,専門医制度に関しても,未だ混沌とした状況が続いており,医療・介護,社会福祉に限っても,将来に不安を感じることが少なくない.更に,教育から政治,経済などと視野を広げると益々狭い領域の利権を追求する習性の不安が募ってくるのは筆者だけではあるまい.
このような現象は国内に留まらない.2016年,英国は国民投票によりEU離脱を決定し,昨年には離脱強硬派のジョンソン首相が選任されている.また,2016年に選出された米国トランプ大統領は「自国第一」を宣言し,立て続けにTPP,パリ協定,イラン核合意,INFの離脱を表明した.わが国の関係では核兵器禁止条約への不参加,IWC脱退等が挙げられるが,われわれは今のこの現象をどのように考えるべきであろうか.地球と言う一つの小さな惑星に70億人を超す人間が生活しており,2050年には約100億人とも予測されている地球人にとって何が正しいのであろうか.「自国第一」に果たして未来はあるのであろうか.われわれ地球人は,もはや細分化・分断化された国や社会や組織の中で,いわゆる“サイロ”内に留まっている時代ではないはずである.今こそ,あらゆる問題を地球規模で捉え対応する真の「統合」が求められているのではないだろうか.

 
利益相反:なし

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