[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (826KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 124(1): 12-17, 2023


特集

独自の進歩を見せる日本の甲状腺癌治療学

2.甲状腺癌の過剰診断・過剰治療とその対策

東京女子医科大学 内分泌外科

吉田 有策

内容要旨
近年,様々な悪性腫瘍において過剰診断・過剰治療の可能性が指摘されている.甲状腺癌の診療においても,微小乳頭癌の過剰診断・過剰治療は解決すべき課題である.わが国では甲状腺結節に対する超音波検査の報告後,約半世紀で明らかに甲状腺癌の罹患率は上昇しているが,死亡率の低下はごく僅かである.このような背景から,近年増加した乳頭癌のほとんどは過剰診断である可能性があると考えられている.この課題解決の一つの方策として,わが国の内分泌外科医は1990年代から,甲状腺微小乳頭癌に対して手術を行わずに経過観察する管理方針,積極的経過観察を世界に先駆けて取り入れた.2010年に発行されたわが国の甲状腺腫瘍診療ガイドラインでは,微小乳頭癌に対する管理方針として積極的経過観察が選択肢とされ,2015年には米国甲状腺学会による成人の甲状腺腫瘍取り扱いガイドラインでも容認された.さらに,2018年のわが国のガイドラインでは,微小乳頭癌の管理方針の一つとして積極的経過観察を推奨しており,その良好な腫瘍学的アウトカムから現在は世界中に普及してきている.積極的経過観察は悪性腫瘍に対して手術を行わないため,適切な適応と方法で実施することが重要である.安全な普及に向けての取り組みや,今後の課題について述べる.

キーワード
甲状腺癌, 甲状腺微小乳頭癌, 過剰診断, 過剰治療, 積極的経過観察


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。