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日外会誌. 123(3): 262-269, 2022


特集

本邦の大腸癌治療の現状と展望―海外における標準治療と比較して

8.多発肝転移の手術適応と術式

防衛医科大学 校外科学講座

岸 庸二

内容要旨
肝転移個数は簡便に評価可能な強力な予後因子であり,4〜5個以上の症例では化学療法を先行することが一般化しつつある.これまでに,切除可能な大腸癌肝転移を対象として,upfront hepatectomyに対して術前化学療法の優位性,また,肝切除単独に対して術後補助化学療法の優位性を,全生存期間において証明した無作為化比較試験は存在しない.しかし,肝病変が進行した症例でも,化学療法と併用しながら,二期的肝切除や同時転移での肝切除先行といった工夫により,長期生存を得ることができる.また,肝切除後無再発生存期間と全生存期間には乖離があり,再肝切除を含む再発後治療が果たす役割の大きさを示唆している.肝臓外科医は,技術的な切除可否にとらわれがちだが,肝転移はStageⅣ大腸癌であることを認識し,原発巣の病理学的因子,KRASやBRAFなどの遺伝子変異,術前化学療法の奏功度など,肝転移個数や腫瘍径以外の予後因子も踏まえ,切除適応を判断する必要がある.薬物治療の成績は年々向上しており,切除不能から可能へconversionとなる症例はさらに増えてくることが予測されるが,complete responseが得られる機会は限られている.多発肝転移に対しては,手術単独でも,化学療法単独でも根治に至ることは稀であり,診断時,再発時,いずれにおいても集学的アプローチを追求する姿勢が大切である.

キーワード
大腸癌肝転移, 転移個数, 術前化学療法, Conversion, 再肝切除


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