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日外会誌. 116(4): 249-253, 2015


特集

外科周術期管理の最前線―術後回復力強化プログラム―

6. 術前炭水化物負荷の効果と限界:作用メカニズムに基づく検証

筑波大学大学院 人間総合科学研究科疾患制御医学専攻外科学

寺島 秀夫

I.内容要旨
術前炭水化物負荷はすでに多くの術後回復力強化ないしファスト・トラック・プログラムにおいて主要素として導入されている.その主目的は術後インスリン抵抗性の低減であり,それによって一層の同化作用を有し高血糖リスクが少ない効果的な術後栄養療法が可能になり,術後アウトカムの改善が期待される.術後インスリン抵抗性の発現機序に基づくと,術前炭水化物負荷は,飢餓状態に続発する血中遊離脂肪酸の過度な増加に起因する末梢性インスリン抵抗性を抑制できるが,手術侵襲に対する生体反応の一環として分泌されるストレスホルモンや炎症サイトカインが誘導する末梢及び中枢性インスリン抵抗性を抑制し得ず,故に,限定された効果しか発揮できない可能性が示唆される.実際,術前炭水化物負荷に関するコクラン・レビュー(2014年版)が提示した結果は,先の論理的な予測と完全に一致しており,末梢インスリン感受性の増加が得られていたものの,在院期間の短縮は臨床的な意義がはっきりしない僅かな程度に留まり,術後合併症や他の重要なアウトカムに関してもほとんどあるいは全く効果が認められなかった.術前炭水化物負荷には理論的にも臨床的にも限定的な効果しかないため,手術侵襲によるインスリン抵抗性を軽減できるような低侵襲性アプローチの導入によって術前炭水化物負荷の効果を補完する必要があろう.

キーワード
術後回復力強化, 術前炭水化物負荷, 手術侵襲, 術後インスリン抵抗性


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