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日外会誌. 110(4): 207-212, 2009


外科学会会員のための企画

癌幹細胞研究の最前線

消化器癌領域における癌幹細胞研究の現状

1) 大阪大学大学院 外科学講座消化器外科
2) 九州大学 生体防御医学研究所分子腫瘍学

竹政 伊知朗1) , 石井 秀始1) , 原口 直紹1) , 三森 功士2) , 田中 文明2) , 永野 浩昭1) , 関本 貢嗣1) , 土岐 祐一郎1) , 森 正樹1)

I.内容要旨
癌組織を構成する細胞は等しく腫瘍形成能を有するのではなく,腫瘍形成能を有する癌幹細胞と腫瘍形成能を有しない細胞に区別できるという癌幹細胞仮説が提唱され,ここ数年注目されている.癌幹細胞は癌の発生や維持のメカニズム解明に重要な鍵を握るだけでなく,外科的根治術後もしくは抗癌剤など術後補助療法後でも再発·転移をきたす原因として,癌幹細胞の残存が深く関係していると考えられ,癌治療の真の標的細胞として注目されるようになった.最初に白血病で癌幹細胞の存在が報告された後,大腸癌,膵臓癌,肝臓癌など消化器癌でも癌幹細胞もしくはこれに近い性質をもつとされるTI-C(tumor initiating cells)が同定されているが,固形腫瘍でも血液腫瘍と同様の知見が当てはまるのかまだ不明な点が多く精力的な検証が進められている段階である.また,宿主側の癌幹細胞の微小環境(ニッチ)が癌の転移形成に重要であることも指摘されるようになった.消化器癌幹細胞研究の成果を治療に臨床応用するためには,正常組織幹細胞の存在の証明と分化メカニズムの解明など基礎的知見を十分に集積し,癌細胞側因子としての癌幹細胞と宿主側環境因子としての微小環境(ニッチ)の両面の細胞学的·遺伝子学的特徴を俯瞰的に解明することが必要であると考えられる.今後,癌幹細胞仮説の導入による新たな腫瘍学に基づいた消化器癌治療法の確立が期待される.

キーワード
消化器癌, 癌幹細胞


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