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日外会誌. 103(10): 746-751, 2002


特集

鏡視下手術の現況と問題点-適応と限界-

10.腹部実質臓器の鏡視下手術の現状と問題点

東邦大学 医学部第2外科

金子 弘真 , 高木 純人 , 柴 忠明

I.内容要旨
腹部実質臓器に対する内視鏡下手術の現状と問題点について概説する.
内視鏡下肝切除に関しては手術手技や手術適応が次第に理解され,近年その症例数は内視鏡下凝固壊死療法とともに急激に増えてきている.適応については鏡視下手術の基本理念である低侵襲と安全性の域を損なうことがあってはならず,現状では肝下区域の表面或いは辺縁,肝外側区域に局在する,術式としては肝部分切除,肝外側区域切除が適応となる.そして,肝実質切離に際しては出血と脈管処理に細心の注意を払い,CO2塞栓の可能性を認識することにより,低侵襲手術として患者QOLにも貢献できる,新たな外科的治療手段の1つとして今後発展していくものと考えている.
膵疾患に対する腹腔鏡下手術は適応症例が少なく,いまだ一般的に普及している手術とは言いがたい.膵良性あるいは低悪性度の内分泌腫瘍の1部の限局性病変が対象となる.術式は膵体尾部切除,内分泌腫瘍の核出術,膵仮性嚢胞に対する胃内手術による嚢胞胃開窓術が主な適応術式となる.膵頭十二指腸切除は手術時間も長いうえ,在院日数の短縮にも寄与していない.膵実質切離に超音波凝固切開装置や器械縫合器を使用することにより,出血のコントロールは可能となったが,いまだ膵液漏は最も多い合併症である.
腹腔鏡下脾臓摘出術は特発性血小板減少症や遺伝性赤血球症などの血液疾患では標準術式となりつつある.さらに脾腫を伴う脾機能亢進症,悪性血液疾患,脾良性・悪性腫瘍などへその適応も次第に広がりつつある.合併症としては出血による開腹移行例が最も多く,手術手技上の問題が大きく起因している. 腹部実質臓器に対する内視鏡下手術は適応症例が少ないため,症例の蓄積による技術の習得が難しい.手術手技の較差を出来る限り少なくして全体をレベルアップすることが重要であり,周辺機器の開発とともに安全に施行するためのトレーニングシステムが今後の課題である.

キーワード
内視鏡下手術, 腹部実質臓器, 内視鏡下肝切除, 内視鏡下膵切除, 内視鏡下脾臓摘出術


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