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日外会誌. 103(4): 337-342, 2002


特集

食道癌診療の現況と展望

3.食道癌の治療
1)内視鏡所見から見たEMR

1) 東京都立駒込病院 外科
2) 東京都立駒込病院 内視鏡科

吉田 操1) , 門馬 久美子2)

I.内容要旨
食道表在癌は診断と治療を考える上で,病態も考慮して三つの群に分類する.1)粘膜固有層までの浸潤(m1, m2)では転移は希で,内視鏡的粘膜切除法(EMR)が適応である.2)粘膜筋板に浸潤するもの(m3)には約6%の頻度でリンパ節転移があり,粘膜下層に軽度浸潤するもの(sm1)には約11%の頻度でリンパ節転移があるため,EMRを適用するには転移陽性症例の鑑別が必要である.3)粘膜下層に中程度以上浸潤するものでは47%の頻度でリンパ節転移が存在するため根治手術の適応である.治療方針の決定には癌の深達度診断が必要で,病型分類はsm癌の鑑別に有効である.0-I型病変の90%,0-III型病変の96%は粘膜下層癌であり,sm2, 3が多い.0-II型病変のうち0-Ilb型は上皮内癌が圧倒的に多い.0-Ila型病変は大部分粘膜内に留まっているが,顆粒の大きなものは粘膜筋板に浸潤するものがあり,鑑別診断が必要である.0-Ilc型病変は最も頻度が高く,深達度は上皮層から粘膜下層に広く分布している.このため0-Ilc型病変に対しては深達度診断を行う.m1癌は陥凹が軽度,表面平滑,食道壁の過伸展時には陥凹が不明になる.トルイジンブルー・ヨードニ重染色を行うと,二つの色素に染まらない不染帯となる.m2癌では伸展しても陥凹が残り,表面に小顆粒状不整が存在する.二重染色では小さな濃青色の染色があらわれ,点状,小斑状あるいは網の目状文様が存在する.m3・sm1癌の場合はm1やm2の病巣の中に顆粒状あるいは小結節状の隆起がある.病巣辺縁にm3浸潤がある場合は病変に接する粘膜の軽度隆起を認める.IIc面の一部分にやや深い陥凹を示す場合もある.深部浸潤が隆起を示すものが70%,陥凹を示すものが22%である.形態や色調変化を示さず診断の困難なものが8%ある.診断困難症例はm3浸潤範囲が狭く,EMRを適用してもその予後は良好である.最近は拡大内視鏡による乳頭内血管の観察が深達度診断能の向上に役立っている.m1, m2癌の正診率は96%, m3, sm1は75%である.リンパ節転移陽性m3, sm1癌はsm2以上の浸潤を疑わせる内視鏡所見を呈するものが大部分である.EMRを間違って適応する可能性は低い.

キーワード
食道癌, 内視鏡診断, EMR, 深達度診断, m3・sm1


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