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日外会誌. 103(2): 250-255, 2002


特集

肺癌非手術療法の新しい試み

8.重粒子線治療

1) 放射線医学総合研究所,重粒子医科学センター病院 
2) 千葉大学 医学部呼吸器外科
3) 神戸大学 医学部放射線科

宮本 忠昭1) , 山本 直敬1)2) , 小籐 昌志1) , 西村 英輝3) , 辻󠄀井 博彦1) , 藤沢 武彦2)

I.内容要旨
1994年11月の開始から,非小細胞肺癌に対する重粒子線(炭素線)治療は,「重粒子線治療ネットワーク会議」によって認定されたプロトコールにより施行されてきた.現在までに,7つのプロトコールが作成され,すでに3つが終了し,現在4つが進行中である.臨床病期I期と局所進行癌との二つに分けて進めている.臨床病期I期肺癌は,18回/6週間の線量分割法によるフェイズI/II研究から開始された(9303).引き続き9回/3週間の線量分割によるフェイズI/II研究(9701)が行われた.この二つのフェイズI/II研究により,重得な放射線肺臓炎の発症はなく,90~95%の局所制御を達成できることが明らかにされた.至適線量を用いて行われたフェイズII研究(9802)では,局所制御率は100%であり,肺臓炎の発症はない.overall survivalも62%と改善している.現在はさらに効率的な照射法を求めて4回/1週間の超短期分割法(0001)が行われている.「肺門部」肺癌を対象とした,プロトコール(9801)では,9回/3週間分割法により,現在まで11例が治療された.この内6例が「肺門部」であり,5例が57.6GyEの線量で,1例が61.2GyEで治療された.すでに4例が1年6カ月を経過したが,気管支反応はすべてグレードII以下の反応である.また,この11例から局所再発はない.手術,レザー治療,気管支腔内照射の適応,あるいはこれらの治療に適応のない「肺門部」肺癌に対する新しい治療法になる可能性がでてきた.炭素線治療は,プロトコールの進行につれて臨床病期I期肺癌に対する局所制御率および生存率ともに外科治療に近づきつつある.
2000年4月に開始された「局所進行型」肺癌(9903)は,16回/4週間の分割で,68, 72, 76GyEの三段階の線量増加を行なうフェイズI/II研究である.現在まで,17名が治療された.重篤な有害反応は見られていないが,68.4GyE照射の5例より1例の局所再発が生じた.72GyEレベルから局所再発は見られていない.病期I期肺癌で得られた優れた局所制御が得られつつある.
炭素線治療は,「肺門部」肺癌を含めて全ての病型の臨床病期I期非小細胞肺癌に対して対応が可能であり,安全かつ確実な根治療法である.高齢者や肺合併症などを有する患者に適すると思われる.また,局所進行肺癌に対しても優れた局所制御が得られつつあり,適応が広がりつつある.特にQOLやADLが問題となる高齢者肺癌(75歳以上)がよい適応と考えている.

キーワード
非小細胞肺癌, 炭素線, 局所制御率, 有害反応, 生存率

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