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日外会誌. 101(7): 490-493, 2000


特集

QOLから見た呼吸器外科

4.肺癌の縮小手術-胸腔鏡手術の役割-

国立がんセンター中央病院 外科

土屋 了介

I.内容要旨
肺癌の標準的な根治術式は肺葉切除と肺門縦隔リンパ節郭清とされている.肺切除による患者に対する負荷は肺容積の減少,ことに肺血管床の減少による.したがって,肺葉切除より肺容積の減少の少ない区域切除や模状切除などが肺癌の縮小手術とされる.肺血管床の減少の少ない縮小手術は術後のQOLを良好に保つとされている.しかしながら,区域切除や模状切除は肺葉切除に比較してminor complicationsが多い.縮小手術における肺実質切除断端の空気漏れの頻度は高く,胸腔ドレーンの抜去までに時間を要する症例が多い.また,切除断端から肺実質への胸水の吸い込みによる障害や,さらには感染,気管支瘻へと移行する症例が少なくないことが以前より指摘されている.肺実質の処理にステープラが頻用されるようになった現在でも同様である.また,肺門縦隔リンパ節郭清の省略も術後の残肺機能の維持には良いと考えられてきた.一方,胸腔鏡手術は胸壁の呼吸補助筋の損傷が少ないことから術直後のQOLが良好に保てるとされている.したがって,開胸術と同様な胸腔内手術操作が可能であれば,QOLの観点からは胸腔鏡手術の方が好ましいといえる.縮小手術の模状切除と単純肺葉切除は胸腔鏡によって可能である.負担の少ない標準的な根治手術には胸腔鏡による系統的な肺門縦隔リンパ節郭清の手技が確立し,安全に短時間で行われることが望ましいが,手技の確立にはしばらく時間を要するようである.現時点では,手術の根治性の確保とQOLの維持とのバランスの観点から肺癌の縮小手術における胸腔鏡手術の役割を考えることが大切であり,胸腔鏡手術と標準開胸や呼吸筋温存開胸による手術との違いは,単に到達法の違いであることを忘れてはならない.

キーワード
縮小手術, 胸腔鏡手術, 区域切除, 部分切除, リンパ節郭清


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