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日外会誌. 100(7): 460-465, 1999


特集

救急医療における最近の進歩

10.病院外心肺機能停止とウツタイン様式
-治療成績の外科的評価のための国際標準書式-

公立昭和病院救命救急センター 

坂本 哲也

I.内容要旨
外傷は病院外心肺機能停止の主たる原因の一つである.対象を来院時心肺機能停止に限るか,病院前の心拍再開に成功した症例も含めるか,救急隊搬送中や病院到着直後の心停止まで含めるかで統計的な予後は大きく異なる.ウツタイン様式は蘇生に関する用語の定義を統一し,各施設間で客観的なデータを比較する国際標準書式として1990年に制定された.本来は心原性に対する書式であるが,外傷などの非心原性でも使用することが推奨されている.定められたコアデータと補足的データを記録し,テンプレートに従って分析すると施設や地域の異なったデータを比較することができる.原因不明の症例は心原性に分類する.外傷に応用する上で重要な点は,受傷機転,鈍的外傷か穿通性外傷か,損傷部位,ショックパンツ(MAST),開胸心マッサージについての情報を付け加えることである.ウッタイン様式に準拠した外傷性病院外心肺機能停止の大規模な報告はまだない.外傷による心停止の機序は出血性ショック,心臓・大動脈の損傷,心タンポナーデ,緊張性気胸,気道閉塞や気管・肺損傷による低酸素血症,重篤な中枢神経障害による神経原性ショックなどであり,気道の確保と換気に加えてMASTや開胸心マッサージによる治療が試みられている.MASTは実験的には有効であり広く普及しているが,臨床的には効果があるという証拠はなく,最近は使用されない傾向にある.開胸心マッサージは救急隊現着時に既に心停止している症例には無効で,適応は救急隊到着後または来院後の心停止例に限られるが,穿通性外傷,特に心損傷が疑われる胸部穿通創には高い適応がある.日本の実状にあった適応を検討するためにウツタイン様式に準拠したデータの蓄積が望まれる.外傷性心停止では心拍再開後も止血や損傷臓器の修復などの治療に成功しないと救命にまでは至らず,ウツタイン様式による心肺蘇生術の経過と外傷自体の重症度を同時に検討すべきである.

キーワード
病院外心肺機能停止, ウツタイン様式, 外傷, ショックパンツ, 開胸心マッサージ


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