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日外会誌. 99(12): 831-836, 1998


特集

開心術における低侵襲的アプローチ(MICS)の現況と展望

6.胸骨下部部分切開によるMICSの適応と限界

国立循環器病センター 心臓血管外科

小林 順二郎 , 笹子 佳門 , 湊谷 謙司 , 北村 惣一郎

I.内容要旨
胸骨下部部分切開によるminimally invasive cardiac surgery(MICS)を施行したのでその手術方法と結果を報告する.症例は大動脈弁疾患13例,僧帽弁疾患13例,及び心房中隔欠損症(ASD)17例の計43例である.男29例,女14例で手術時年齢は弁疾患で平均58歳,ASDで38歳であった.手術適応としては,弁疾患では初回の単弁疾患であり,大動脈弁疾患は弁輪拡大を要しない症例,僧帽弁疾患は単純な弁置換術あるいは修復術症例とした.大動脈弁置換術を13例に,僧帽弁形成術を10例に,僧帽弁置換術を3例に,ASD閉鎖術を18例に施行した.術式としては,10cmの正中皮膚切開を行い,胸骨切開は逆L字型とした.胸骨体部下縁よりの胸骨正中切開はストライカーにて行い,第二肋間で胸骨右半横切を行った.体外循環として,送血は全例上行大動脈から,脱血は大動脈弁疾患では,右心耳より,僧帽弁疾患・ASDでは上大静脈に直接L字型カニューラと,下大静脈にL字またはストレートの脱血管を挿入して確立した.手術は軽度低体温にて行った.僧帽弁疾患では,MICS用のリトラクターを用い,主として経中隔的アプローチにて手術を行った.またvideo-assisted surgeryとして30度の硬性鏡にて僧帽弁の観察・逆流テストを行った.深部結紮にはknot pusherを使用した.周術期心筋梗塞による手術死亡を1例に認めた.合併症としては,1例で再開胸止血術を要し,MRSA縦隔炎を併発したが,腹直筋充填で治癒した.1例で溶血により再僧帽弁形成術を要した.左房血栓を有する1例で術後一過性に痙攣を認めたが,器質的脳障害はなかった.38例(88%)で無輸血手術が可能であった.患者の創に対する満足度は高かった.本術式は比較的容易な開心術に関しては,安全な方法と考えられ,手術器具の工夫等により,さらにMICSが容易になると考えられた.

キーワード
低侵襲手術, 弁膜症, 心房中隔欠損, Video-assisted Surgery


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