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日外会誌. 99(11): 776-780, 1998


特集

臓器移植の今後の展望

8.臓器保存の進歩

1) 大阪大学 医学部手術部
2) 大阪大学 医学部第2外科

梅下 浩司1) , 門田 守人2)

I.内容要旨
臓器保存に伴う傷害は,保存中の虚血と低温による傷害と,再潅流の際に生じる再潅流傷害からなる.後者には活性酸素が重要な役割を果たすと考えられ,保存液に活性酸素の発生を抑制し,或いは抗酸化作用を有する薬剤が添加され,一定の効果をあげている.
臓器保存法には,臓器を低温の液中で保存する低温浸漬保存(単純低温保存)と,潅流液で潅流する潅流保存とがあり,前者がその簡便さから主に用いられている.Wisconsin大学で開発されたUW液により,腎臓や膵臓は48時間,肝臓では24時間と,腹部臓器については臨床上最低限の低温保存時間が確保された.しかし,心臓や肺の胸部臓器については,保存時間は未だに数時間に限られている.
近年の諸臓器の移植成績の向上に伴い移植の適応が広がった結果,本邦に比べて臓器提供が圧倒的に多い欧米でもドナー不足が叫ばれている.待機リストにのった状態で移植を受けられずに死亡する患者の数が年々増加している.いわゆるmarginal donorや,心停止ドナーなど,donor poolの拡大が必要である.
上述したような,胸部臓器の保存時間の延長,marginal donorや,心停止ドナーの臓器の利用のため,保存法の更なる改良が急務である.遺伝子導入などの最近の分子生物学的な研究の成果も取り入れるべきであろう.
臓器を提供し,末期臓器不全に苦しむ患者さんを助けたいというドナー及び家族の方々の意志は貴重である.この意志を尊重し,提供の希望のある臓器は一つでも無駄にしないため,臓器保存の研究の意義は大きい.

キーワード
低温保存, 灌流保存, 虚血再灌流傷害, UW液


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