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日外会誌. 99(7): 441-445, 1998


特集

大腸癌:浸潤・転移の基礎と臨床

9.血管新生阻害剤による大腸癌肝転移治療

浜松医科大学 第2外科

今野 弘之 , 田中 達郎 , 金井 俊和 , 馬塲 正三 , 中村 達

I.内容要旨
大腸癌において肝転移の阻止,治療は予後を向上させるための必須条件といえる.これまでの手術,化学療法を中心とした肝転移治療は一定の効果をあげてきたものの,予後への寄与はいまだ不十分である.癌の浸潤,転移機構の解明に伴い,新しい概念による癌治療が注目されているが,腫瘍細胞自体を標的とするのではなく,腫瘍細胞に酸素や栄養を供給する腫瘍血管を標的とする血管新生阻害剤による治療もその一つである.腫瘍組織内の血管内皮細胞の増殖や管腔形成を阻害することにより腫瘍の成育や転移を抑制するもので,代表的なものがフマジリン誘導体であるTNP-470であり,米国では臨床試験が進んでいる.また腫瘍血管新生を促進する種々の血管新生因子が明らかになっているが,これらの血管新生因子を標的とした血管新生阻害剤も注目されている.消化器癌の腫瘍血管新生に最も関与している血管新生因子であるvascular endothelial growth factor(VEGF)を標的としたVEGF中和抗体などが代表的な血管新生因子特異的阻害剤である.われわれはこれまでヒト大腸癌の自然肝転移モデルを作製し分子生物学的特徴と転移率の関連などを検討してきた.これらの中で高肝転移大腸癌株TK-4,-13を用い,TNP-470, VEGF中和抗体の大腸癌肝転移に対する治療効果を実験的に検討した結果,TNP-470,VEGF中和抗体いずれも有意な肝転移阻止効果を示した.抗癌剤との抗腫瘍効果の相違を検討したが,腫瘍成育抑制効果は抗癌剤が優れていたが,肝転移阻止効果は血管新生阻害剤の方が顕著な効果を示した.またTNP-470,VEGF中和抗体ともにapoptosisを誘導し,“tumor dormancy”の状態を維持することにより担癌生体の長期生存が得られることが示された.抗血管新生療法は新しい消化器癌治療法として期待される.

キーワード
血管新生, TNP-470, VEGF 中和抗体, 大腸癌肝転移


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