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日外会誌. 99(6): 362-367, 1998


特集

大腸癌発生予防の基礎と臨床

6.化学予防の理論と臨床

秋田大学 医療技術短期大学部

成澤 富雄

I.内容要旨
癌の化学予防の対象は癌高危険群であり,その研究は発癌要因が明らかにされている大腸癌で最も進んでいる.大腸発癌にはAPC, ras, p53などの遺伝子変異(イニシエイション),高脂肪・低線維食,野菜・果実摂取不足などの食事性因子が重要な役割を果たしている.高危険群(大腸腺腫症と保因者,遺伝性大腸癌と保因者,大腸癌術後,腺腫)の大腸粘膜はすでにイニシエイションを受けており,化学予防の第一の選択はプロモーションあるいはプログレションの阻止である.有効な化学予防を1年以内の短期間で判定するための中間代理指標としては異型腺窩巣と腺腫がある.動物モデルを用いた研究成果から多数の有効物質が知られているが,臨床介入試験に応用可能なものは限られている.インドメサシンなどの非ステロイド抗炎症剤が発癌剤誘発ラット大腸癌の発生を阻止することが報告され,その後,大腸腺腫症患者のポリープがスリンダクの継続投与によって数カ月後に消失すること,症例対照比較調査,大集団追跡調査などの疫学研究から,アスピリンを含む非ステロイド抗炎症剤の常用は大腸癌,大腸腺腫の発生を減少させることが明らかにされた.胆汁酸ウルソデオキシコール酸,特異的オルニチン脱炭酸酵素阻害剤α-difluoromethylornithineがラット大腸発癌を阻止する.いずれもアポトーシス誘導作用と抗プロモーション活性が注目され,臨床介入試験が開始されている.食物成分である食物繊維,非消化性オリゴ糖,乳酸菌,ω-3脂肪酸,また非栄養性微量成分であるカルテノイド類,フラボノイド類(緑茶ポリフェノールを含む)などの天然抗酸化物質による化学予防にも期待が寄せられている.

キーワード
大腸癌, 癌化学予防, 非ステロイド抗炎症剤, COX-2, ウルソデオキシコール酸


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