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日外会誌. 99(4): 208-213, 1998


特集

肝細胞癌外科治療の現況

2.肝移植手術の導入

京都大学大学院 医学研究科消化器外科

嶌原 康行 , 山岡 義生 , 森本 泰介 , 猪飼 伊和夫 , 山本 雄造 , 山本 成尚

I.内容要旨
通常の肝切除が困難な肝細胞癌の外科的治療として,体外部分肝切除一残肝部分自家移植法は興味あるオプションである.
当科で2例の経験をしたが,いずれも臨床病期I,6cm以上の主腫瘍は内側区域(又は一部前区域に及ぶ)に局在し,中肝静脈に浸潤,左肝静脈を強く圧迫,癒着していた.肝右葉は小さく外側区域は肥大していた.まず拡大左葉切除を行い,体外手術にて腫瘍を含む内側区域の切除を行い,残った外側区域を同所性に自家移植した.成功した1例では,冷虚血時間は113分,put inから門脈血再灌流までの温虚血時間は50分であった.術後肝不全に陥って死亡した他の1例では,冷虚血時間は197分,温虚血時間は40分であった.また,同症例の外側区域にはsatellite lesion が存在し,核出術,エタノール注入による処置も加えられた.肝不全の要因は,1)障害肝の3時間を越える冷保存によって,グラフトの障害が急速に進行したこと,2)グラフトに対する処置がさらに障害を強めたこと,3)native残肝(肝右葉)が巨大な腫瘍の摘出が必要であったため,さらに小さくなったこと,などが想定できる.
成功した1例は3年11カ月で残肝再発で死亡した.再発に対してTAEを一回行ったが,末梢胆管の壊死によると思われる肝膿瘍が発生した.肝移植片へのTAEは注意を要することが判明した.
結論:肝細胞癌に対する体外肝切除術は,外科治療の適応を拡大する有力な方法として注目される.しかしながら,ほとんどの症例で慢性肝障害を合併しており,体外手術中に自家移植片の機能が急速に劣化する可能性もあり,その適応には十分注意しなければならない.

キーワード
肝細胞癌, 肝硬変, 体外肝切除術, 自家部分肝移植


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