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日外会誌. 99(3): 197-200, 1998


症例報告

術前治療が肝癌の転移を促進させる危険性がある

1) 福岡県済生会八幡総合病院 外科
2) 福岡市民病院 外科

松股 孝1) , 岡本 正博1) , 石川 博人1) , 野添 忠浩1) , 末廣 剛敏1) , 舟橋 玲1) , 北村 昌之1) , 葉 倫建1) , 磯 恭典1) , 前田 貴司2)

I.内容要旨
経皮的エタノール局注療法施行中に,肝静脈内腫瘍栓が形成されてきた63歳女性の肝細胞癌に対して,肝切除術を行った.術後6カ月目に多発性肺転移が出現した.術後1年目も肝内再発はないが,肺転移巣は増大している.画像診断では捉えられない微小肺転移は,原発巣発見時にすでに存在していたのかもしれない.しかし,エタノール局注療法開始時点では,画像上肝静脈内に腫瘍栓が無かったこと,主結節は壊死に陥ったのに,アルファフェトプロテインは上昇を続け,肝静脈内に腫瘍栓が形成され,ついに下大静脈に突出してきた状況から,術前治療が肺転移を促進させた可能性がある.我々は,不完全な壊死効果しかない主腫瘍への治療よりも,微小転移巣にこそ有効な,補助療法本来の目的にかなった治療方法を一層工夫していく必要がある.

キーワード
肝細胞癌, 他臓器転移, 腫瘍壊死


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