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書誌情報]
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日外会誌. 99(1): 46-51, 1998
特集
広範囲熱傷治療の現況
9.特殊熱傷
気道熱傷
I.内容要旨火災や爆発の際に煙や水蒸気,熱を吸入することによって生じる呼吸器系の障害を総称して気道熱傷と呼ぶ.気道熱傷は重症熱傷患者の予後を左右する主要な要因の一つであり,気道熱傷の合併により呼吸不全や肺炎の発生頻度は10倍以上に増加し,死亡率は最大20%増加する.気道熱傷とはいうものの,通常は熱による傷害が喉咽頭以下にまで及ぶことはなく,有毒ガスによる気道や肺胞粘膜への化学的な傷害により惹起される炎症(chemical bronchitis and penumonitis)が主体である.気道熱傷において重要なことは,煙の吸入は炎症のきっかけに過ぎず,受傷後数時間を経て進行する一連の炎症反応により低酸素血症が顕在化し,そして増悪するという点である.
気道熱傷に伴う変化としては,気道では攣縮,分泌物の増加,浮腫,粘膜の壊死・脱落(偽膜形成)が,肺胞ではサーファクタントの減少,毛細血管透過性の亢進,炎症細胞の浸潤などが生じ,無気肺や肺水腫,感染を来たしやすい状態となる.気道熱傷時の肺の換気血流分布の特色は,一般の呼吸不全では真性シャント(VA/Q=0)への血流増加が主体であるのに対して,換気血流比の低い領域(0< VA/Q< 0.1)への血流が増加している点である.すなわち,気道熱傷においては浮腫や偽膜形成による末梢気道の狭窄が,低酸素血症の主たる機序であると考えられる.そのため,気管支鏡による積極的な吸引を行って偽膜や分泌物を除去することと,吸収性の無気肺を防止するために酸素濃度はできる限り低く保つことが重要である.また,人工呼吸を行う際には,酸素化能を改善し,気道内圧の上昇を抑制するとともに偽膜の喀出を促進するHFPV(高頻度換気の一種)が適している.現在気道熱傷に対する特異的な薬物療法はなく,呼吸不全に対してしばしば用いられる一酸化窒素(NO)吸入療法も,気道熱傷に対しては酸素化能や予後の改善効果は期待できない.
キーワード
気道熱傷, 呼吸傷害, 一酸化炭素, 呼吸管理, 肺換気血流比(ventilation-perfusion ratio)
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