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日外会誌. 98(9): 755-760, 1997


特集

進行度を配慮した食道癌外科治療

Ⅲ.術前リンパ節転移状況を配慮したT2,T3症例の合理的リンパ節郭清
4.腹部リンパ節転移陽性胸部下部食道癌(Ei)のリンパ節郭清

虎の門病院 消化器外科

鶴丸 昌彦 , 宇田川 晴司 , 梶山 美明 , 堤 謙二 , 木ノ下 義宏 , 上野 正紀 , 中村 豊英 , 秋山 洋

I.内容要旨
胸部下部食道癌症例で腹部リンパ節転移があるT2またはT3症例のリンパ節郭清についておもに頸部郭清の意義について論じた.リンパ節転移状況,遠隔成績,再発形式の観点から検討したが,T2T3, Ei症例では頸部/胸部/腹部転移はそれぞれ35.8%/63.2%/80.0%で,リンパ節転移の主座は腹部であった.腹部単独転移はわずか18.9%で腹部,胸部の2領域転移は28.4%,腹部,胸部,頸部の3領域転移は27.4%であった.腹部に転移があった場合はその40.9%の症例に頸部転移がみられた.頸部転移では右反回神経沿いの転移が頻度が高いが,鎖骨上や左反回神経の気管旁リンパ節など縦隔からのアプローチが困難な部位にも20.0%に転移がみられた.リンパ節転移の頻度からみると頸部までの郭清が必要と思われたが,再発形式からみると頸部転移のある症例は臓器転移として再発することが多く,リンパ節郭清の効果はみられないとも言えるし,郭清の効果でリンパ節再発の頻度が減少しているとも言える.遠隔成績をみると,腹部リンパ節転移があるものは,3領域郭清では36.3%,2領域郭清28.3%の5生率であつたが統計学的有意差ではなかった.しかし,本比較検討では検出力の点で『T2T3, Ei症例に対して頸部を含めた郭清が意味がない』と判定するまでには至っていない.腹部転移の中でNo.16の転移は極めて予後が悪く,現在のところ転移陽性例に対しては郭清効果はみられていない.腹部リンパ節転移陽性のT2T3, Ei症例に対する郭清範囲について断定的なことは言えないが,頸部郭清,No.16郭清を積極的に支持する根拠は得られていない.

キーワード
リンパ節郭清, 胸部食道癌, 3領域郭清, リンパ節転移


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