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日外会誌. 98(8): 671-675, 1997


特集

慢性肝炎・肝硬変合併疾患の外科

Ⅲ.各論的事項(慢性肝炎)
2.慢性肝炎・肝硬変合併 心・大血管手術

大阪大学 医学部第1外科

平田 展章 , 松田 暉

I.内容要旨
心臓外科領域における,肝機能異常合併症例は2群に大別される.一つはB型およびC型ウイルス肝炎後の慢性肝炎・肝硬変合併症例である.心・大血管手術後に輸血後肝炎を呈した症例の再手術の増加にともない,慢性肝炎・肝硬変合併症例の頻度が増加している.もう一つの病因はうっ血による肝機能異常である.これはうっ血性心不全の結果,うっ血肝が遷延・反復した結果である.
これら肝機能異常を有する症例では術後肝不全を含む合併症を引き起こさないよう術前はもちろん術中術後管理に留意する必要がある.術後肝不全の原因として,①肝血流障害:手術中の大量出血,低血圧などによる循環動態の変動.②術後早期の呼吸循環不全による低酸素血症や感染症の合併(膿瘍,敗血症,創感染etc.肝機能異常に起因する網内系の機能障害のため.)③Gram(一)桿菌のendot oxinによる肝内胆汁うっ帯.④薬剤.⑤肝炎ウイルス.⑥貧血,低栄養などが考えられる.したがって,術後肝不全の予防策として,術前に貧血・栄養状態の改善を図る必要があるのはもちろんだが,最大の要因は手術侵襲の軽減にある.これがひいては輸血量を減少させ,薬剤の影響および感染をも減じさせるものと考える.確実な効果が得られる的確な手術法の選択が必要である.このためには,開心術に耐えうるかどうかの肝予備能の把握が必要である.肝切除術の際の肝予備能を示すものとした種々の因子が提唱されているが,各施設の経験と成績に基づいて設定されたもので,未だ確定したものがない.今回のわれわれのデータでは,肝細胞分泌酵素である血清コリンエステラーゼ値が予後と相関していることが示唆された.今後,より普遍性があり,手術侵襲による肝障害も加味した肝病態の評価法の開発が待たれる.

キーワード
肝炎後肝硬変, うっ血性肝硬変, 術後肝不全, 肝予備能, 血性コリンエステラーゼ


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