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日外会誌. 98(7): 639-645, 1997


特集

膵癌治療の変遷

11.新しい治療法の展望-免疫療法・遺伝子治療・分化誘導療法・ホルモン療法・その他

島根医科大学 第1外科

仁尾 義則 , 田村 勝洋

I.内容要旨
膵癌は,現今のあらゆる種類の癌治療に抵抗性で,難治性癌の代表である.従来の手術療法,化学療法,放射線療法の効果と発展に期待が持てない現状では,他の新療法の開発が急務である.そのうち,免疫療法は,当初,免疫賦活剤の投与,TNFなどのサイトカイン療法,LAKやCTLを用いた養子免疫療法が行われたが,顕著な効果を得るには至っていない.新しい試みでは,サイトカイン遺伝子導入腫瘍細胞や変異ras遺伝子蛋白を用いたワクチン療法の研究などが注目される.遺伝子療法としては,アンチセンスK-ras転写ベクターや,単純庖疹ウイルスのチミジンキナーゼ組込みベクターの腫瘍細胞への導入とそれに続くガンシクロビルの投与によりDNA合成を強力に阻害する研究などがある.分化誘導療法は,キノリノン誘導体のベスナリノンを用いた研究があり,単独または制癌剤との併用でヒト膵癌株の増殖を抑制することが報告されている.ホルモン療法としては,膵癌の発生と増殖への関与が推察されているコレシストキニンの拮抗剤CR1505やL364,718を用いた研究が報告され,ヌードマウス移植ヒト膵癌株を用いた動物実験の段階では有効である.その他,重水を用いた療法もin vitroでヒト膵癌株に対して抗腫瘍効果を示すが,その拡散性の故に,in vivoへの応用が困難という問題がある.
以上,様々な新療法が研究されているが,いずれも未だ臨床応用の段階ではない.このうち,ベスナリノンは,現在他の疾患の治療に用いられていることもあり,早期に臨床研究に入る可能性がある.

キーワード
膵癌, 免疫療法, 遺伝子療法, 分化誘導療法, 重水


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