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日外会誌. 98(5): 516-523, 1997


総説

劇症肝炎と肝移植

広島大学 医学部第2外科

丸林 誠二 , 土肥 雪彦

I.内容要旨
激症肝炎とは肝炎のうち症状発現後8週以内に高度の肝機能障害に基づいて肝性昏睡II度以上の脳症をきたし,プロトロンビン時間40%以下を示すものとすると定義されている.劇症肝炎の発生頻度については,一般に人口10万あたり3.4人(年間3,700人)と推定されている.劇症肝炎の臨床病型別の生存率は,劇症肝炎急性型54.1%と劇症肝炎亜急性型13.4%および遅発性肝不全8.6%との問に大きな生存率の差異が生じていた.劇症肝炎の治療として各種の内科的治療法が行われてきた.しかし,どの治療法についても単独では生命予後を改善させることができなかった.欧米での激症肝炎に対する同所性肝移植の治療成績は約65-80%の1年生存率が得られるようになっている.わが国における肝移植適応基準は,1990年に日本肝移植適応研究会から提案された「劇症肝炎およびその周辺疾患における肝移植の適応」がある.しかし,経過をみているうちに,みるみる増悪する症例もあり,改善の余地も残されている.現在,激症肝炎に対しておこなわれている標準的手術手技は同所性肝移植である.補助肝移植は一時的補助手段としてドナー肝を腹腔内に移植し,レシピエントの肝臓の再生を待つもので,もし患者本来の肝臓が再生すれば補助肝は取り除くこともできることが特徴で,異所性(APLT)と同所性(APOLT)の2つの方法が報告されている.APLTは,手術侵襲も少なくてすみ,魅力的な手術法であるが,その問題点の1つは門脈血流をレシピエント側とグラフト側にどのようにshareさせるかという点,および腹腔内のスペースが狭いことによる静脈うっ滞があげられる.APOLTはドナー肝を同所性に移植するため静脈還流障害がほとんどなく,門脈血流が障害されないことが特徴である.今後,補助肝移植がその治療法として同所性肝移植にかわりうるかどうかは,症例を積み重ねて比較検討することが必要であろう.

キーワード
劇症肝炎 (fulminant hepatic failure), 肝移植 (liver transplantation), 補助肝移植 (auxiliary liver transplantation)


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