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日外会誌. 97(7): 557-562, 1996


特集

閉塞性動脈硬化症

下腿動脈への血行再建
-血管非剥離法による下腿動脈バイパス手術とその成績-

1) 山梨医科大学 第2外科
2) 東京大学 医学部第2外科

多田 祐輔1) , 神谷 喜八郎1) , 進藤 俊哉1) , 鈴木 修1) , 伊従 敬二1) , 佐藤 紀2) , 宮田 哲郎2)

I.内容要旨
閉塞性動脈硬化症における重症虚血肢は上流の病変に加えて,下腿動脈閉塞を合併することによってもたらされることが多い.特に高齢者の重症虚血肢には下腿動脈の合併頻度が高く,今後,救肢率の向上に下腿動脈の合理的な再建がますます要求される.しかしながら血管が細く,手技の欠陥が直に成績に影響する手術であるために,一般には成績不良で,限られた症例にのみ適応されているのが現状である.我々は1980年はじめより,新しい手術手技を考案し,血管非剥離法あるいはエスマルヒ駆血法と名付けた.剥離による宿主動脈の外膜損傷を最小限度にとどめ,血管鉗子を用いないで,エスマルヒ駆血帯,あるいはターニケットを用いて下腿全体を虚血にして,無血野で吻合する方法である.この方法によって,吻合操作が格段に容易になり,正確な吻合が可能になる,吻合部近傍の筋枝を完全に温存できる,鉗子や剥離に伴う血管損傷がない,などの技術的な利点のみでなく,剥離による吻合部周辺の癩痕化が軽減され(complianceの維持),バイパス後,血流増加に対応して宿主動脈が吻合部を含めて拡大し,全体として滑な吻合部の形態に移行することが証明されている.この方法によって,1983年より,1995年までに脛骨動脈,腓骨動脈および足関節部へのバイパス手術を行ったが,70%がFontaine 3,4度の重症虚血肢に適応されている.遠隔開存率は一次開存率1年,3年,5年,10年で各々82.0%,75.5%,63.9%,63.9%,二次開存率89.1%,84.8%,80.8%,80.8%であった.遠隔成績に影響を与えた因子は5例のHUV+veinのcomposite graft,および,静脈採取時の損傷,弁部の狭窄であり,末梢側吻合部狭窄は1例のみであった.
本術式は従来難しいとされていた下腿動脈バイパス手術を容易にし,今後高齢者の重症虚血肢の治療に広く適応できる術式である.

キーワード
下腿動脈バイパス, 血管非剝離法, エスマルヒ駆血法, 足関節部動脈バイパス, 重症虚血肢


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