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日外会誌. 97(4): 308-311, 1996


特集

胃癌外科治療の最近の進歩

胃癌腹膜転移の予防と治療

鳥取大学 医学部第1外科

貝原 信明

I.内容要旨
1976-1989年の14年間に鳥取大学第1外科において治癒切除がなされた漿膜浸潤陽性胃癌234例の治療成績を腹膜転移防止の観点から分析した.全ての例で開復時に腹腔内洗浄細胞診が行われ,遊離癌細胞陽性率は,pT3 17.8%,pT4 25.0%,耐術例のうち腹腔内遊離癌細胞陽性例(n=39)の術後5年生存率は15.4%,陰1生例(n=190)のそれは49.3%であった.この結果は,胃癌取扱い規約上の判定は治癒切除であっても,腹腔内に遊離癌細胞が証明された例の治療成績はきわめて悪いことを示している.しかし,見かたを変えて5生率0%ではないことに注目すれば,長期生存例には手術以外の何らかの治療効果が現われているのではないかとも捉えられる.そこで腹腔内遊離癌細胞陽性例を持続温熱腹膜灌流(CHPP)施行例と非施行例にわけて遠隔成績を検討してみると,CHPP施行群(n=15)では5生率33.3%に対して非施行群(n=24)ではわずかに1例の長期生存がえられただけで,5生率4.2%という結果が示された.したがって,腹腔内遊離癌細胞陽性の場合は補助療法を加えなければ全て5年以内に再発死するが,何らかの手段を講じればある程度の腹膜再発防止効果を期待できると云えそうである.しかし,腹腔内遊離癌細胞が認められなかった例ではCHPPの効果は殆ど見られなかったので,補助療法を行うに際しては腹膜再発高危険群の選択が必要であると思われる.
胃癌腹膜転移の治療のために多くのことがなされているが,その実は殆ど上がっていないので,われわれの努力は再発防止に向けられるべきである.そして実を上げるためには腹膜再発高危険群を選択し,これらについて効果を検討するのが望ましい.また,ハイリスク症例の選択には洗浄細胞診のほかに腹腔内CEA濃度測定が有用であろう.

キーワード
腹膜転移, 温熱療法, 化学療法, 胃癌


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