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日外会誌. 97(4): 286-290, 1996


特集

胃癌外科治療の最近の進歩

早期胃癌手術における神経温存の意義

金沢大学 医学部第2外科

三輪 晃一 , 木南 伸一 , 佐藤 貴之 , 藤村 隆 , 宮崎 逸夫

I.内容要旨
早期胃癌の術後障害の原因として,郭清に伴う自律神経ことに迷走神経の損傷が挙げられる.迷走神経切離による障害は,すでに消化性潰瘍の多数の手術経験で明らかにされており,postvagotomy diarrheaとpostvagotomy gallstone formationがよく知られている.われわれはD2の術後障害を軽減する目的で1991年より,迷走神経肝枝と腹腔枝を温存する迷走神経温存胃癌リンパ節郭清(vagus-saving D2:VS-D2)を行ってきたので,その腹腔枝温存の意義を検索した.腹腔枝の走行は,3つのタイプに分類され,Aは右横隔膜脚前面,Bは横隔膜脚と左胃動脈の問,Cは左胃動脈に伴走する.AとBがVS-D2の適応で,解剖学的には2/3の症例に温存可能であった.1994年までの術後1年以上経過したVS-D2症例は39例,同期間の腹腔枝を温存できなかった症例は32例で,それぞれを温存群,切断群とした.なお,切断群の肝枝および肝神経叢は,温存群と同様に温存された.温存群に,手術死亡はなく,3例のリンパ節転移症例が含まれたが再発は見られなかった.38項目のアンケートでは,便通の異常に違いが見られ,「術前に比べ,下痢気味になった」が温存群3%,切断群28%であった(p< 0.01).また,体重の回復不良を,術前値の95%以下とすれば,温存群64%,切断群84%で,温存群の体重回復が良好な傾向にあった(p=0.08).胆石の発生は,温存群3%,切断群13%であった.この発生率は,従来のD2/D3ビルロートI法検索180例の胆石発生率22%に比べ低かった.グルカゴン刺激によるインシュリン分泌能は,腹腔枝温存により保持され,末梢血中∠CPR/BS(10-3)の平均値は温存群3.5,切断群0.8であった(p< 0.01).以上の成績より,肝枝に加え腹腔枝を温存する胃癌リンパ節郭清(VS-D2)は,治癒率を下げず,術後の下痢,胆石の予防,体重の回復などで,患者の術後のQOLに好影響を与えると結論される.

キーワード
胃癌, 胃切除術, 迷走神経, 縮小手術, QOL

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