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日外会誌. 97(4): 263-268, 1996


特集

胃癌外科治療の最近の進歩

胃癌と大腸癌の比較

金沢大学がん研究所 外科部門

磨伊 正義 , 太田 孝仁 , 源 利成 , 高橋 豊

I.内容要旨
胃癌,大腸癌の類似点,相違点を明らかにすることを目的として,両癌の癌発生の場としての背景粘膜,前癌性病変の差異,発育進展様式の相違点などを明らかにし,共通した病態からみた治療方針の確立が可能か否かを探った.その結果は以下の如くである.1)病理組織学的所見からは両者の形態学的類似性がみられた病変としては分化型腺癌かつ隆起型の病変があげられた.2)胃と大腸の分化型腺癌初期発育様式をみると胃癌ではde novo様の発育を示し,腫瘍径の増大に伴なってリンパ節転移率が上昇した.一方大腸早期癌の多くは腺腫を伴ったポリープ状発育を示していたが,大腸表面型早期癌ではsm癌の頻度は高く,中分化型sm癌に限ると平均腫瘍径が1.6±1.0cmという小病変にも拘らず,リンパ節転移率は22%と高率であり,外科的切除を優先させるべきと考えられた.3)進行癌における転移形式をみると,肝転移の頻度に関しては胃癌,大腸癌ではそれぞれ16.8%,15%と差異はないが,腹膜播種は胃癌では高率に発生し,胃癌のもつ生物学的特性が示された.4)胃癌,大腸癌の発育速度(doubling time,DT)を腫瘍マーカーから求めたところ,胃癌肝転移症例のDTは,26.6±10.8日,大腸癌のそれは57.8±35.4日であった.大腸癌肝転移はslowgrowingの傾向にあり,肝再発症例に対しては外科的切除が有効なものが多かった.以上の結果より,胃分化型腺癌の癌化過程には大腸癌同様多段階発癌を窺わせる共通の遺伝子変化の蓄積が推測された.しかし完成された進行性の胃癌,大腸癌に限ってみると,一見形態学的類似性を示しながらも発育,進展そして転移様式に関しては,胃癌:大腸癌の生物学的態度が大きく異なることを指摘した.

キーワード
胃癌, 大腸癌, 前癌性病変, 発育速度


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