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日外会誌. 96(10): 718-723, 1995


原著

ブタ同所性肝移植におけるカルシウム動態に関する検討

北海道大学 医学部第1外科

木村 純 , 中島 保明 , 大村 孝志 , 田村 元 , 伊藤 浩二 , 井齋 偉矢 , 内野 純一

(1994年3月28日受付)

I.内容要旨
ブタ同所性肝移植における術中のカルシウム(Ca)動態を,移植肝への流入と胆汁への排泄という観点から,温阻血の有無により比較検討した.体重20kg前後のブタを用い,移植肝の血流再開にレシピエントの内腸骨動脈とグラフトの門脈をチューブでシャントする一時的門脈動脈化(PA)法を応用した移植実験を行った.I群:温阻血時間0分(n=6).II群:温阻血時間60分(n=6).II群ではドナーを開腹前にKCIにて心停止,肝を腹腔内に放置し温阻血とした.ドナー肝は冷ユーロコリンズ液で灌流しつつ,rapid techniqueで摘出した.レシピエントは肝上部下大静脈吻合後,移植肝を室温リンゲル液にてリンスし,PA法にて血流を再開した.移植肝の初期灌流血5ml/kg・BWを肝下部下大静脈に挿入したチューブより採取した.I群は全例が4日以上生存,II群は全例が2日以内に移植肝不全にて死亡した.I群では術中の動脈血と肝静脈血中の血清Ca2+値に差を認めなかったが,II群では血流再開時の肝静脈血中Ca2+値は動脈血に比し低値を示した(動脈血:2.15±0.08,肝静脈血:1.59±0.19mEg/l,p< 0.02).両群間の比較では血流再開時の肝静脈血中Ca2+値がII群でI群に比し低値を示した(I群:2.22±0.09,II群:1.59±0.19mEg/l,p< 0.02).胆汁では,I群の血流再開30分以降90分までの移植肝の胆汁排泄量,胆汁中Ca濃度,胆汁中Ca排泄量はそれぞれレシピエント開腹時の約30%,100%,40%を示したが,II群では血流再開90分までに胆汁排泄をみたのは2例のみであった.以上の結果より,温阻血肝では,血流再開時の移植肝へのCa2+流入が亢進し,胆汁へのCa排泄が低下していることが明らかとなり,この移植肝へのCaの蓄積は障害の機構を解明するに当たって重要な因子のひとつと考えられた.

キーワード
肝移植, 温阻血, カルシウム, 一次的門脈動脈化

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