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日外会誌. 96(7): 430-438, 1995


原著

虚血骨格筋再灌流時の好中球エラスターゼの変動
-腎動脈下腹部大動脈瘤症例を中心として-

山形大学 医学部第2外科

稲沢 慶太郎

(1994年3月15日受付)

I.内容要旨
急性動脈閉塞症のモデルとして,腎動脈下腹部大動脈瘤手術時の大動脈遮断による虚血骨格筋の再濯流をとりあげ,① PMNEと生体内PMNE阻害物質α1-ATの変動,② PMNEの阻害物質であるウリナスタチン(U)の効果,③大動脈遮断により骨格筋に生じる虚血の程度を検討し,急性動脈閉塞症の術後合併症を防止するための対策について考察した.
対象は腎動脈下腹部大動脈瘤手術症例20例で,U非投与群をI群(10例),U投与群をII群(10例)とした.大腿静脈血を経時的に採血し試料とした.両群には対象症例として有意の差は認めなかった.大腿静脈血の生化学的変動では両群で差はなかった.白血球数,好中球数の変動は両群間で差はなく,遮断解除後に好中球数の白血球教に対する割合が有意に増加していた(p< 0.01).また,再灌流直後,大腿静脈血と肺動脈血を同時に採血した結果,好中球数の白血球数に対する割合,およびPMNE値は肺動脈血より大腿静脈血の方が高値を示す傾向があった.PMNEはI群では遮断前233.7±34.8μg/lから,遮断解除後2時間848.0±110.3μg/lと遮断前に比して有意のレベルに達した(p< 0.001).II群では,遮断前204.8±21.0μg/l,2時間で416.7±36.6μg/lとI群に較べて有意に低値であった(p< 0.01).PMNEindexの変動では遮新解除後II群はI群と較べて遮断前に比して有意(p< 0.01) に低値を示し好中球活性化が抑制されていた.大動脈遮断時間とPMNE(I群)とは正の相関(p< 0.01)がみられた.以上から,再灌流によりPMNEは有意に上昇し,長時間の下肢骨格筋虚血後の再灌流は臓器障害の誘因となり得ると考えられた.Uは灌流血中のPMNEの増加を抑制しており,同剤の投与は臓器障害の予防に有効である可能性があると思われた.

キーワード
好中球エラスターゼ, PMNE, 再灌流障害, ウリナスタチン

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