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日外会誌. 96(3): 168-173, 1995


原著

リンパ節転移陰性 (n0) 乳癌の予後に関する臨床病理学的検討

帝京大学 医学部第2外科

佐伯 菊子

(1993年2月15日受付)

I.内容要旨
組織学的検索にてリンパ節転移のないn0乳癌のなかにも,10年以内に再発死亡をきたす症例が約10%認められる.臨床病理学的な面からn0乳癌の生物学的性状を検討し,再発の高危険群を見出すための基礎的研究を行った.
1960年から1972年までの初治療浸潤性乳癌のうち,リンパ節転移のないn0乳癌779例を対象とし,癌の割面腫瘤径,組織学的浸潤径,組織学的波及度,および組織学的悪性度と10年生存率との関係から予後因子を検討した.またn0乳癌のc-erbB-2遺伝子蛋白の発現性を再発死亡例と生存例において比較検討した.
n0乳癌全体の10年生存率は88.6%であった.肉眼的割面腫瘤径が21mm以上の10生率82.6%は20mm以下の症例の10年生存率92.6%に比し予後不良であった.組織学的浸潤径が11mm以上の10生率83.1%は10mm以下の症例の10年生存率93.7%に比し予後不良であった.組織学的波及度では高度脂肪織浸潤や高度リンパ管侵襲のあるものは予後不良であった.組織学的悪性度では核分裂の多いものは予後が不良であり,c-erbB-2遺伝子発現性は再発死亡例に強陽性例が多く,また5年以内の早期再発例に陽性率が高かった.
したがってn0乳癌の予後不良因子としては,癌の組織学的浸潤径が11mm以上,組織学的に高度な脂肪織浸潤やリンパ節侵襲,多数の核分裂像,c-erbB-2遺伝子発現陽性が考えられる.

キーワード
乳癌, リンパ節転移陰性, 予後因子, 臨床病理学, c-erbB-2


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