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日外会誌. 95(12): 899-910, 1994


原著

新しく開発した外科用弾性接着剤の血管外科への応用
血管吻合部の力学的特性及び病理的変化についての基礎研究

千葉大学 医学部第1外科(主任:中島伸之教授)

山口 敏広

(1993年8月13日受付)

I.内容要旨
従来の医用接着剤の欠点を補うべく,宿主血管との力学的適合性を持ち,創傷治癒を傷害させない反応性ウレタンプレポリマーを基本骨格とする医用弾性接着剤を用い,接着吻合実験を施行した.本研究では,雑種成犬の頸動脈及び腹部大動脈を完全離断した後で,接着剤による血管吻合を行い,縫合糸を用いた血管吻合をコントロール群として創傷治癒期から慢性期(180日)にかけての開存性,吻合部の力学的性状(張力,弾力性)及び病理組織学的変化について検討した.
開存性に関しては,接着吻合群とコントロール群両者とも良好な開存を示した.力学的性状の検討では, 1) 吻合接着部張力は7日目で生理的血管内圧(0.2kg/cm2)を凌賀し,経時変化と共に吻合部強度が増加し, 90日目で21.22kg/cm2と最大値を示した.これは吻合部の組織学的所見で線維芽細胞から膠原線維に変化する事と一致した. 2) 弾性値Stiffness Parameter βは180日に於て僅かに上昇する傾向が確認され,吻合部弾力性変化は縫合糸を用いたコントロール群と比較し同等か,やや柔軟性を認めた.病理組織学的治癒については初期に軽度の異物反応及び慢性期での血管壁の外膜肥厚が観察されたが,コントロール群に観られる糸周囲の硝子様変化は存在しなかった. 180日間の観察では仮性動脈瘤の発生も認めなかった.
以上の結果から,初期の接着性及び慢性期での組織治癒,弾力性の保持により,吻合部でのcompliance mismatchingは回避でき良好な開存性を示した.新たに開発されたこの接着剤は,従来に比較して生体血管との十分な力学的特性を保ち心臓血管外科への応用が高い接着剤と考えられた.

キーワード
反応性ウレタンプレポリマー, 血管吻合用接着剤, 吻合部張力, stiffness-parameter β

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