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日外会誌. 95(12): 875-886, 1994


原著

直腸癌術後の性機能障害の検討
-臨床症例の検討および雑種成犬を用いた骨盤内自律神経と骨盤内動脈血行との関連性の検討-

東京医科歯科大学 第1外科学教室(主任:遠藤光夫教授)

松本 日洋

(1993年8月5日受付)

I.内容要旨
直腸癌術後には性機能障害が高頻度に発生する.そこで,直腸癌術後の性機能障害を男性15例(平均51.7歳)において検討するとともに,雑種成犬を用いて骨盤内自律神経と骨盤内血流(内陰部動脈領域)との関連性を実験的に検討した.直腸癌手術症例においては,下腹神経を切断した場合でも勃起機能はほとんど障害を受けず,動物実験においても,下腹神経および交感神経幹を切断しても陰茎海綿体球部内圧の上昇に障害は見られなかった.しかし,手術症例では下腹神経を両側切断された場合は逆行性射精が1年以上続いた.骨盤内臓神経(PSN) を両側切断すると内陰部動脈血流量は低下し勃起障害が見られたが,片側の切断例では,術後1ヵ月以後の勃起障害は見られなかった. PSNの下位枝を一側でも残した症例では勃起機能は温存されていた.動物実験で片側のPSNを障害した場合内陰部動脈血流量は障害側のみ低下し,反対側は逆に増加した.雑種成犬の摘出血管平滑筋に対するnorepinephrineの作用を検討したところ,内陰部動脈の切片だけがnorepinephrineによって縦方向に強く弛緩し,この反応はα-blockerによってのみ抑制された.
これらの臨床的実験的事実は,下腹神経や交感神経幹は勃起機能にはほとんど無関係であること,またPSNは内陰部動脈の血流量を同側優位,両側性に制御して勃起機能に関与することを示唆している.さらに,勃起時の血流維持には,交感神経要素が関与することを示唆している.

キーワード
直腸癌術後, 性機能障害, 骨盤内自律神経, 骨盤内動脈血行


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