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日外会誌. 95(6): 382-393, 1994


原著

膵管胆道合流異常における膵炎の発生に関する実験的研究
-膵 Phospholipase A2の活性化を中心に-

大阪大学 医学部小児外科学教室(指導:岡田 正教授)

中村 哲郎

(1993年2月22日受付)

I.内容要旨
膵管胆道合流異常に合併する膵炎の病態における膵phospholipase A2 (PLA2) の役割につき,ラットに合流異常モデルを作製し,総胆管内でPLA2の活性化と膵障害発生の有無及びその程度について経時的に検討した.
実験動物は体重250g前後の雄性ウィスターラットを用い以下の3群に分類した. Group 1(膵液胆汁混合群ー合流異常群):総胆管内で胆汁と膵液が混合し且つ内圧上昇をきたすべく,総胆管末端部を結紮した群. Group 2(膵液単独群):膵管内圧上昇のみによる影響をみるべく,肝門部胆管と総胆管末端部の2ヵ所を結紫した群. Group 3(単開腹群).各々ラットを術後6時間から7日目まで総胆管内液を採取後脱血屠殺した. PLA2活性の測定はHPLC法にて行い,また活性型PLA2及びPro-PLA2の検索は抗ラット膵PLA2血清を用いImmunoblot法にて行った.組織学的検索はHE染色法にて行い,抗ラット膵PLA2血清を用いたABC染色法にて膵組織内のPLA2の分布について検索した.なおモデル実験に先だって, PLA2活性値の測定条件とImmunoblot法での活性型PLA2とPro-PLA2の分離条件の検討を行った.
PLA2の測定では他の酵素の影響を最小限に抑える条件が設定でき, Immunoblot法では活性型PLA2とPro-PLA2が明瞭に分離できる条件が決定できた.モデル実験においてはGroup 1において総胆管内PLA2の活性値の上昇および胆汁中に活性型PLA2の出現を認めたが, Group 2では活性値の上昇はなく活性型PLA2は認められなかった.組織学的にはGroup 2では間質性膵炎の経過をとったが,Group 1では膵腺房細胞の壊死が認められ, PLA2染色では壊死組織周辺部にPLA2の濃い染色部が認められた.
以上より膵液中PLA2は胆汁の存在する総胆管へ流入し胆汁と混合され鬱滞することで活性化されることが明らかとなった.また活性化されたPLA2の膵管内への逆流が膵腺房細胞の壊死をもたらすことが示唆された.

キーワード
先天性胆道拡張症, 膵管胆道合流異常, 膵炎, phospholipase A2 (PLA2)


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