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日外会誌. 94(8): 840-846, 1993


原著

Intact-PTH による我々の上皮小体自家移植法の評価

名古屋大学 医学部第2外科(主任:高木弘教授)

上田 雅和 , 舟橋 啓臣 , 佐藤 康幸 , 加藤 正仁 , 高木 弘

(1992年3月18日受付)

I.内容要旨
甲状腺癌手術で上皮小体をどう扱うかは重要な問題であり,当科では1978年から上皮小体を全摘出し泥状に細切して大胸筋に自家移植することを基本術式としている.今回この移植法を検討し,術後の低Ca血症やテタニーの機序について考察するために,術前後の経時的なintact-PTHの変動を調べた.対象は, 1988年7月から1989年12月までに当科で甲状腺癌により甲状腺全摘とR2以上の両側頸部郭清,および上皮小体自家移植を行った38例のうちの17例で,術前から術後4週までの評価を行った.検体は早朝安静空腹時に肘静脈から採血し,直ちに冷却遠沈した血清を一40℃で保存し, 3カ月以内にキットを用いて2-site IRMA法によりintact-PTHを測定した. 17例のintact-PTHは,術後14日目で術前値の約80%まで回復し,それ以後はほぼ一定であった.また術直後から3日目までは測定感度以下であり,我々の術式では上皮小体は全腺摘出されていると考えられた.移植腺が2腺(6例)とそれ以上(11例)とを比較すると, 2腺群の機能回復はやや遅れるものの,術後21日目には他の群とほぼ同じにまで回復していた.術直後に低Ca症状のために補充療法を必要とした群(12例)と,そうでない群(5例)と比べると, intact-PTHはほぼ同じ経過で回復していた.即ち,我々の上皮小体移植法で機能温存は十分に可能であり,少なくとも2腺移植されれば機能回復を見込めると思われる.また補充療法は移植片の生着や機能回復に害を与えないと考えられ,テタニーの発症とintact-PTH値とは相関が認められなかった.以上から操作が比較的簡単で,ほぼ確実に機能を温存できる我々の上皮小体移植方法は,甲状腺癌手術に応用してもよいと思われた.

キーワード
甲状腺癌, 上皮小体自家移植, intact-PTH, テタニー, 低カルシウム血症


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