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日外会誌. 94(6): 593-603, 1993


原著

肝切除後の残存肝の再生時における DNA 単鎖切断, DNA 合成の経時的変化に関する実験的研究

東邦大学 医学部第1外科

渡邊 正志

(1991年12月27日受付)

I.内容要旨
肝切除後の残肝再生時における肝細胞の細胞周期をより明らかにすることを目的に, ラットの70%肝切除後モデルを用いて, 残肝組織内におけるDNA単鎖切断(nick), DNA合成の経時的変化を検討した. DNA単鎖切断の動態は, biotinによるinsitu nick translation法で, DNA合成の過程は, BrdU抗体, PCNA抗体を用いた免疫組織化学で, 単染色のみならず二重染色を加えての検討を行った.
正常肝細胞におけるDNA単鎖切断の染色局在とその程度は, 門脈域周囲, 肝被膜近くの肝細胞核に最も強く認められた.また, 中心静脈周囲の肝細胞にも少量であるが認められ, 胆管上皮細胞の核も染色されていた.肝切除後のnick陽性肝細胞数の動態は, 切除後12時間目より増加しはじめ48時間に最も多く認められた.肝切除後の肝細胞のDNA合成過程については, 切除後30分から12時間目までは, BrdU取り込み陽性, PCNA陽性の細胞数は共に切除前と同様で少なかったが, 24時間目にはBrdU取り込み陽性細胞数245±18.4%, PCNA陽性細胞数136±27.0%, 48時間目にはBrdU取り込み陽性細胞数100±10.9%, PCNA陽性細胞数187±28.7%と増加し, 168時間目には再び切除前にもどる傾向であった.
肝切除後のnick陽性肝細胞, BrdU取り込み陽性肝細胞, PCNA陽性肝細胞の主たる組織内局在はいずれも門脈域周囲で, 二重染色における検討でも同部位において二重に染色される肝細胞が多く認められた.肝切除後24時間目の染色陽性細胞がnick陽性肝細胞> BrdU取り込み陽性肝細胞>PCNA陽性肝細胞の順に多く認められたこと, 肝切除後48時間目nick陽性肝細胞の数が他にくらべ著しく多かったことなどより, 肝切除後残肝の肝細胞の再生は, まず門脈域周囲においてnickが出現し, 引き続いて同部位でDNA合成(BrdUの取り込み)が始まり, やや遅れてPCNA蛋白が認められ, 細胞分裂後再びnickが出現することが示唆された.

キーワード
肝再生, DNA 単鎖切断 (nick), in situ nick translation, 5-bromodeoxyuridine (BrdU), 増殖細胞核抗原 (PCNA)


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