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日外会誌. 94(5): 480-493, 1993


原著

膵広範切除後の膵再生とインスリン投与の効果

三重大学 医学部第1外科教室(主任:水本龍二教授)

大橋 直樹

(1991年11月28日受付)

I.内容要旨
膵広範切除後の膵再生に及ぼすインスリン投与の効果を明らかにする目的で本研究を行った.雑種成犬を用い, 92%以上の膵切除を行って糖尿病(DM)を作成し, 手術翌日より早朝空腹時の血糖値を70 ~ 130mg/dlに維持するようにNPHを1日1回皮下投与したインスリン投与群(I群)とインスリン非投与群(非I群)の2群に分けて, 術後早期の残存膵の細胞増殖や術後12週目までの膵内外分泌機能ならびに膵再生について検索した.
非I群では全例がDMを持続して術後7週以内に死亡したが, I群では3週以内に12.5%が死亡したのみで, 術後7週目の犠牲剖検例を除いて他は全例が観察した12週間生存し, うち57.1%がDMより軽快した.
残存膵の細胞増殖を, 膵組織のDNA合成, RNA合成及びornithine decarboxylase (ODC)活性や腺房細胞のS期細胞比率でみると, これらの値はいずれも術後3日目にピーク値を示し, I群が非I群に比べて有意にかつ著明に高値を示した.
膵内外分泌機能はいずれも, I群では非I群に比べて有意に良好に維持され, I群のなかでもDM軽快例で最も良好であった.膵島の組織学的変化をみると, 非I群の膵島は萎縮し島細胞の消失や空胞変性が著しかったが, I群では膵島の萎縮や膵島細胞の変性は軽度であった.
膵再生率は, 術後6~7週目でI群では非I群に比べて有意の高値を示し, さらに術後12週目ではI群中, DM軽快例はDM再発現例やDM持続例に比し有意に高値を示した.また, 術後6~7週目の膵再生率と術後3日目の残存膵組織のDNA合成, RNA合成及びODC活性とはそれぞれ有意の正の相関を示した.
以上, 膵広範切除後のインスリン投与はDMの発現を抑制して, 術後早期の残存膵腺房細胞の増殖を促進するとともに, 術後長期にわたりB細胞を保護し内因性インスリン分泌を良好に維持して膵再生を促進するものと考えられた.

キーワード
膵部分切除, 糖尿病, DNA 合成, ornithine decarboxylase, 膵外分泌機能

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