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日外会誌. 94(1): 50-56, 1993


原著

硬変肝切除後早期における糖質投与の残存肝
エネルギー代謝に及ぼす影響

東北大学 第1外科

酒井 謙次 , 大内 清昭 , 佐藤 隆次 , 小熊 信 , 松野 正紀

(1991年3月4日受付)

I.内容要旨
肝切除後早期での高カロリー栄養補給に対する疑問が報告されている.今回肝切除後の糖質投与の残存肝エネルギー代謝, ミトコンドリア機能, 脂質代謝への影響を実験的に検討した.
方法:チオアセタマイド肝硬変ラットに対し75%肝切除を施行し, 術後糖投与量によりI群30Cal/Kg/day, II群200Cal/Kg/dayのグルコースを経静脈的に48時間持続注入し, 肝Adenine Nucleotides, ミトコンドリアでのATP生成能, 血中ケトン体, グルカゴン, インスリンを測定した.
結果:肝エネルギーチャージはI群に比較してII群で有意の低下が見られ, 術後24時間でも低値であった.術後の肝ミトコンドリアのATP生成能は両群ともに脂肪酸を呼吸基質とした場合には亢進し, ピルビン酸では逆に低下した.II群での血糖値は術後48時間でも220mg/dlと高血糖が持続していた.血清遊離脂肪酸及びケトン体はI群では術後に顕著な変動は見られなかったが, II群では高インスリン血症による血清遊離脂肪酸の低下と, グルカゴン低下による脂肪酸酸化の抑制により, 血中ケトン体の著明な低下が認められた.硬変肝では肝切除早期には脂肪酸によるATP生成は亢進しており, 逆にピルビン酸経由のTCA回路でのATP生成能は低下している.この時期の過剰な糖質投与は血清遊離脂肪酸の低下と, 脂肪酸酸化抑制により, この時期の主要なエネルギー基質である脂肪酸の利用を障害し残存肝エネルギー代謝に不利なことが示唆された.

キーワード
肝硬変, 肝切除, エネルギー代謝, 高カロリー輸液, 肝ミトコンドリア


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