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日外会誌. 93(11): 1410-1415, 1992


原著

膵癌術中腹水およびダクラス窩洗浄細胞診の意義

国立がんセンター 外科

木下 平 , 尾崎 秀雄 , 小菅 知男 , 島田 和明

(1991年7月25日受付)

I.内容要旨
1986年9月より1990年9月までの約4年間に粘液産生膵癌,嚢胞腺癌,島細胞癌などの特殊型を除く原発性膵疵37症例に,開腹と同時に腹水およびダグラス窩洗浄細胞診を施行し,その結果を肉眼的腹膜播種の有無,予後,再発型式の面から検討した.
37例中肉眼的腹膜播種陽性症例は6例で,疑陽性まで含めると細胞診陽性率は66.7%であった.切除例を含め6例全例が10.5カ月以内に癌性腹膜炎にて死亡した(平均生存期間6.0カ月).肉眼的腹膜播種陰性例31例中1例の疑陽性例を含む8例(25.8%)が細胞診陽性であった.疑陽性の1例を除き漿膜浸潤陽性S2以上の症例であった.細胞診陽性非切除例6例全例に腹膜播種の出現を認め, 5例が死亡した(平均生存期間7.6カ月).
肉眼的播種陰性,細胞診陰性症例は23例で, 15例に切除術が行われ, 8例が非切除に終わった.再発型式をみると,腹膜播種の出現は23例中6例(26.1%) と細胞診陽性症例8例中6例(75.0%)に比して有意に少なかった. 23例中生存例6例(最長42カ月,平均生存期間9.6カ月),死亡例17例(平均生存期間11.1カ月)であった.腹水の細胞診陽性率55.6%は洗浄細胞診陽性率25.0%に比して高率であった.
以上より膵癌手術において,腹水およびダグラス窩洗浄細膨診は肉眼的に認知不可能な微小腹膜播種の検出に有効であると考えられた. しかし,肉眼的腹膜播種陰性細胞診陰性症例の中にも早期に腹膜播種の出現する症例もあり注意を要する.肉眼的腹膜播種陽性例の予後は極めて悪く切除の適応はないと考えられた.また肉眼的播種陰性細胞診陽性症例に対する切除の適応に関しては,切除例が少なく評価不可能であるが,非切除例全例に腹膜播種が出現し平均生存期間も短いことから,有効な治療法が開発されるまでは切除の効果は期待できない可能性が高い.今後の検討が必要である.

キーワード
cytological examination, peritoneal washings, pancreatic cancer

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