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日外会誌. 93(4): 419-428, 1992


原著

人工材料を利用した自家静脈の退行変性予防法の開発

1) 京都府立医科大学 第2外科
2) グローニンゲン大学 心肺外科研究部門,オランダ

佐藤 伸一1) , 丹生 智史1) , 神田 圭一1) , 岡 隆宏1) , Ch.R.H. Wildevuur2)

(1991年2月6日受付)

I.内容要旨
自家静脈は現在臨床に最も頻繁に用いられている動脈血行再建用の代用血管であるが,その長期の開存率は期待に反して良くない.その原因は静脈壁に線維化や内膜肥厚などの退行性変性が生じ,至適な動脈化の過程が阻害されるためである.その退行性変性の原因は採取時の損傷や不充分な保存などが挙げられるが,我々は動脈圧下での静脈壁の過伸展もその大きな原因の一つであろうと考えた.
それを防ぐため柔らかいmicroporousな生体吸収型のポリウレタンで静脈壁の外から締め付け,動脈系に移植した(jaketモデル).またポリウレタンの至適な生体吸収性速度を検討するため,吸収速度の異なる二種類のポリウレタンを用いた. 56羽の家兎の頸動脈に自家静脈を移植し, jaketしたものとしないコントロールとに群別して,第1日目, 1週間後, 2週間後, 3週間後, 6週間後にグラフトを摘出した.
その結果, 3週間後まではグラフトは両群ともすべて開存していた. 6週間ではコントロール群は37.5%の開存率であったがjaketモデル群は二種類とも100%の開存率を示した.jaketモデル群には退行性変性を認めず,そして迅速性生体吸収型ポリウレタンでjaketしたものは生体反応を惹起して豊富な細血管を早期にその周囲に集め,さらにポリウレタンが吸収されるとともに壁外から静脈壁内へ多くの細血管が貫通し栄養血管となっていた.また輪状の平滑筋層や典型的な弾性線維も形成され出しており,至適な動脈化をもたらすことが判明した. これらの現象は遅延性よりも迅速性でより早期から出現した.
臨床応用の場合,動物実験からポリウレタンの至適な吸収速度を決定することは困難である.しかし自家静脈の長期の開存率を向上するため,このような静脈壁の過伸展を防ぐ方法は臨床的にも有用な手段とおもわれる.

キーワード
自家静脈, 退行性変性, 内膜肥厚, 成長因子, ポリウレタン

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