[書誌情報] [全文PDF] (920KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 93(1): 86-95, 1992


原著

Cold blood cardioplegia による逆行性持続的冠灌流法 (RC-CBCP法)

兵庫県立姫路循環器病センター 心臓血管外科
*) 神戸大学 医学部第2外科

樋上 哲哉 , 小川 恭一 , 麻田 達郎 , 向原 伸彦 , 西脇 正美 , 山本 信一郎*) , 中村 和夫*)

(1990年11月19日受付)

I.内容要旨
逆行性冠灌流法は大動脈弁手術や高度の冠動脈狭窄に対する冠動脈バイパス術などに際し有用な心筋保護法であるが,この方法では右心系の保護に多少問題があるとされてきた.本研究ではこの点を明らかにすることを目的とし, RC-CBCP法を用いた成人弁膜症手術例60例(Retro群)を対象として,心筋保護液の灌流分布と右室心筋保護を中心に順行性冠灌流法を用いた30例(Ante群)と比較検討した.
心筋保護液の瀧流分布は大動脈遮断直後の心筋保護液注入に伴う心筋温の変化によって評価した.左室心筋温は両群とも同様の心筋温変化を示したのに対し,心室中隔の温度はRetro群が有意に低値であった.一方,右室の心筋温は, Retro群がAnte群に比しやや緩徐に低下する傾向を示したが,最終的には13.8±2.7℃にまで低下し, Ante群の12.7±3.7℃と差を認めなかった.右室心筋保護の評価は大動脈遮断解除時の右室心筋mitochondria(MC)の形態学的評価によって行ったところ, Retro群におけるMC障害は極めて軽度であり,その程度を示すMC scoreは0.211±0.027で, Ante群の0.229±0.045と有意差のないことが明らかとなった.このMC scoreは心エコー法によって得られた左室心筋重量 (LVMW)あたりの CBCP濯流量に最も依存し,その量が 5ml/100gLVMW/ min以上で非可逆的MC障害を回避し得ることが示された. PMI, 手術死亡は両群とも1例もなかったが,術後の心筋逸脱酵素CK-MB値の検討では, Retro群がAnte群に比し有意な低値を示した.
以上より, RC-CBCP法における心筋保護液の灌流分布は左室,心室中隔では良好で,右室でも順行性冠灌流法とほぼ同等であることが示され,左心系はもとより,右心系の保護についてもMCレベルからみて良好であることが判明した.総合的にRC-CBCP法は極めて安全かつ確実な心筋保護法と考えられた.

キーワード
逆行性持続的冠灌流法, cold blood cardioplegia, 心筋保護液灌流分布, 心筋ミトコンドリア障害, 心筋保護


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。