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日外会誌. 92(11): 1608-1616, 1991


原著

大量肝切除後におけるエンドトキシン血症の肝網内系に及ぼす影響に関する実験的研究

浜松医科大学 第2外科
*) 浜松医科大学 第2病理

丸尾 啓敏 , 中村 達 , 室 博之*)

(1990年9月14日受付)

I.内容要旨
致死量以下のエンドトキシン(ET)が肝再生中の肝網内系に及ぼす影響について実験的に検討した.ラットに34%,70%,84%肝切除後,ET 1mg/kgを経静脈投与し,ET非投与群と比較した.ETは肝切除後1,3,5日目に投与し2日後に,肝重量再生率,単位面積当りのクッパー細胞(Kc)の数と分布,静脈投与した炭粉の消失率(K値),生存率を求めた.その結果,(1)ET投与群と非投与群の間に肝重量再生率に差はなかった.(2)70%および84%切除ET非投与群の小葉中心域Kc数は各々5日目と7日目に約2倍に増加して頂点に達し,小葉全体が均一なKcの分布密度を示した.一方,肝非切除群ではET投与2日後の門脈域周囲,小葉中心域のKc数は各々1.1倍,1.3倍に増加した.34%切除群では,ET投与後のKc数はET非投与群と同様の値を示した.しかし,70%および84%切除群のKc数はET投与により増加率が低下し,特に小葉中心域では強く減少した.(3)炭粉の消失率K値から見た網内系(RES)機能は,肝切除ET非投与の全群で術後1日目に術前値以下に低下したが,70%,84%切除の5日目と7日目には術前値以上に賦活化され,K値は小葉中心域Kc数の増加と相関を示した(r=0.9).一方,ET投与後K値は有意に低下したが,賦活化した時期のET投与が最も強くK値を減少させた.(4)肝切除後ET投与群のみに死亡例がみられ,84%切除群3日目ET投与の生存率は70%切除群の1,3日目ET投与の生存率より有意に低下した(p<0.05).(5)死亡例の肝組織中には全例に肝壊死と肝,腎,脾にDICの所見がみられた.
以上の結果から大量肝切除後の肝再生過程早期には軽度のET血症が術後死亡の原因となり得るとともに,Kcの増殖抑制と数の減少を起こし,生体防御上重要なRES機能を高度に抑制することを認めた.また肝切除は個体のETに対する感受性を亢進させ,それが微小循環の傷害による肝壊死を発生する可能性が考えられた.

キーワード
肝再生, エンドトキシン血症, クッパー細胞, 網内系機能


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