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日外会誌. 92(11): 1571-1576, 1991


原著

外科手術後におけるエンドセリンの変動
ー胸部食道癌と胃癌手術症例の比較検討ー

東京医科歯科大学 第1外科
*) 東京医科歯科大学 第2内科

伊藤 金一 , 五関 謹秀 , 遠藤 光夫 , 平田 結喜緒*) , 丸茂 文昭*)

(1990年8月13日受付)

I.内容要旨
血管内皮細胞由来の強力な血管平滑筋収縮因子であるエンドセリン(ET-1)の血中濃度を上部消化管手術後に測定し,その臨床的意義について検討した.血中ET-1濃度は新たに開発した特異的,かつ高感度のRadioimmunoassay法(RIA)にて測定した.
対象は,胸部食道癌・右開胸開腹食道亜全摘群(EC群:10例),胃癌・胃全摘(非開胸)群(GC群:10例)で,心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)等の電解質調節ホルモンも共に検討した.測定は手術前日,術直後,第1,2,3,5病日早朝に行った.
手術前のET-1値は,両群共に正常範囲であった(正常値,1.5±0.5pg/ml).術直後にEC群では7.26±4.92pg/mlと,術前値に有意な(p<0.01)上昇をしめし,第1病日まで有意な上昇が続いた.一方GC群は術直後で上昇はするが,術前値との間に有意差はなかった.2群間の術直後の値では,EC群がGC群に比し有意な(p<0.05)上昇を示した.術前と術直後のET-1値の変動と術中の出血量の関係をみるとr=0.671(p<0.05)の正の相関を示した.
一方,ANPは両群共に第2病日にピークを持ったが,EC群のみ,術直後に有意の(p<0.05)上昇をしめした.EC群では術後のET-1値と術前後のANPの変動に,r=0.667(p<0.05)と正の相関を示した.しかしET-1と測定時期の血圧の間には,両群ともに相関関係はなかった.
以上から術後のET-1の上昇は,術中の血管損傷により生じるものと考えられ,出血量が損傷範囲を反映したものと推測され,血中ET-1値は外科手術の侵襲を表す新たな一指標となりうると考えられた.またET-1はANPの放出促進因子の一つであり,今回の食道癌術後のANP上昇の一因であると考えられた.

キーワード
エンドセリン, 心房性ナトリウム利尿ペプチド, 上部消化器癌手術, 外科侵襲


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