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日外会誌. 92(8): 1001-1009, 1991


原著

乳癌の乳管外浸潤と予後に関する研究

東京女子医科大学付属第二病院 外科(主任:梶原哲郎教授)

蒔田 益次郎

(1990年8月1日受付)

I.内容要旨
乳癌は乳管内に発生し,乳管外へ浸潤を起こす.乳癌の予後を左右すると思われるこの浸潤の量と質について臨床病理学的に検討した.症例は1950~64年の15年間に癌研外科で治癒手術を行った両側性乳癌,他病死を除く原発性乳癌症例で,浸潤巣をもち予後が判明してくる839例である.浸潤量の指標として浸潤径を用い,その測定は腫瘍の最長径を通る1列の割面において,浸潤部分の長径を組織学的に計測した.浸潤の質をみるため,浸潤形態を5つの組織亜型に分類した.すなわち,管腔形成の有無で2つに大別し,管腔形成のある浸潤形態を乳頭管状/篩状型とし,管腔形成性のない浸潤形態は,癌胞巣の大きさによって,癌細胞集団が大きく髄様を呈する髄様型,小型ないし中型の癌胞巣を呈する小胞巣型,細胞集団を作らない純硬型とさらに細胞集団が間質にある粘液中に浮遊している粘液型の4つに分けた.各症例につきその浸潤部分にみられる形態を上記にしたがって分類し,単一か複合かの構成もみた.
浸潤の量と予後について10年生存率でみると,浸潤径20mm以下で80.7%,21mm~50mmでは45.0%,51mm以上で8.3%と,浸潤径に比例して10年生存率は低下した.浸潤の質について,管腔形成の有無と10年生存率をみると管腔形成ありの10年生存率71.5%に対して,管腔形成なしは62.4%で,管腔形成のあるものは予後が良かった.さらに,管腔形成の程度と10年生存率をみると管腔形成100%群は86.0%,管腔形成50%以上100%未満群は68.0%,管腔形成50%未満群は58.6%となり,管腔形成の占める割合の大きいほど予後が良かった.しかし,管腔形成なしの10年生存率62.4%は管腔形成50%未満群の10年生存率より良く,管腔形成以外の予後因子の存在が示唆された.そこで,管腔形成なしについてそれを構成する浸潤形態の種類数から検討すると,1種類のものの10年生存率は72.7%,2種類以上のものは47.1%となり,浸潤形態が単一のものは浸潤形態が多彩なものよりも予後が良かった.
結論として,浸潤径は最も予後を反映する因子であった.浸潤の質については,浸潤形態の多彩さが,予後不良の指標となり,管腔形成が予後良好の指標となっていた.

キーワード
乳癌, 乳管外浸潤, 浸潤径, 管腔形成

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