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日外会誌. 92(8): 997-1000, 1991


原著

甲状腺峡部の分化癌に対する手術術式の検討

信州大学 医学部第2外科

新宮 聖士 , 菅谷 昭 , 小林 信や , 春日 好雄 , 増田 裕行 , 藤森 実 , 飯田 太

(1990年8月31日受付)

I.内容要旨
甲状腺峡部の分化癌に対する適切な手術術式を検討するために,教室において経験した症例の術式,臨床病理学的所見ならびに術後遠隔成績を調査した.
1967年から1986年までの20年間に当教室で手術を施行した原発性甲状腺癌症例は747例で,そのうち峡部に発生した分化癌は19例(2.5%)であった.年齢分布は16歳から71歳にわたり(平均47.9歳),性別は男性4例,女性15例であった.
対象症例19例に対して行われた手術術式は,全摘6例,亜全摘8例,峡部を含む葉切除1例,峡部切除4例であった.所属リンパ節郭清は,R016例(非郭清例7例,小範囲郭清例9例),R1 3例で,R2以上の郭清が行われた症例はなかった.
腫瘍の大きさは,最大径で0.5~5.0cmで,組織型は乳頭癌16例,濾胞癌3例であった.
小範囲郭清あるいはR1郭清を行った12症例を郭清例としてリンパ節転移を検討すると,リンパ節転移は6例(50%)に認められた.なお腺内転移は3例に認められた.また,腫瘍径とリンパ節転移の関係について検討したが,両者の間には,明らかな相関関係は認められなかった.
最長22年,最短3年経過した今日,いずれも術後局所再発や遠隔転移はなく,19例全例生存中である.
以上より,甲状腺峡部の分化癌に対して根治性を期待できる術式は,亜全摘で充分であり,全摘は必要ないと考えられた.亜全摘の方法は,甲状腺両葉の上極を残す切除が望ましい.リンパ節郭清は原則として両側のR1郭清が妥当である.なお,腫瘍径0.5cm以下の微小癌症例に限っては,縮小手術を考慮してもよいと思われる.

キーワード
甲状腺峡部の分化癌, 甲状腺切除範囲


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