[書誌情報] [全文PDF] (3713KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 92(8): 940-950, 1991


原著

大腸粘膜下浸潤癌原発巣の生物学的悪性度判定に関する研究

新潟大学 医学部第1外科(主任:武藤輝一教授)

下田 聡

(1990年7月14日受付)

I.内容要旨
大腸sm癌原発巣の生物学的悪性度判定基準をsm浸潤程度から検討した.浸潤程度を表す方法として浸潤面積,癌腫底の長さ,深部浸潤面積,浸潤面積比を用い,生物学的悪性所見(ly,v,n),病巣の大きさ,肉眼形態との関係につき69例を対象に分析した.その結果,①浸潤面積と生物学的悪性所見との間には関係が認められず,悪性度判定には有用ではなかった.②癌腫底の長さ5mm未満の病巣に生物学的悪性所見は見られず,これに該当する病巣は悪性所見陰性例の27.3%であった.生物学的悪性所見陽性群の癌腫底の長さは陰性群に比し有意に長かったが,各所見別では差はなかった.③深部浸潤面積7.5mm2未満の病巣に生物学的悪性所見は見られず,悪性所見陰性例の68.2%がこれに該当した.30mm2以上の病巣は何らかの生物学的悪性所見を有していた.各所見別で陽性群は陰性群に比し有意に高値を示した.④浸潤面積比20%未満の病巣に生物学的悪性所見は見られず,悪性所見陰性例の72.7%がこれに該当した.45%以上の病巣は何らかの生物学的悪性所見を有していた.各所見別で陽性群は陰性群に比し有意に高値を示していた.⑤深部浸潤面積7.5mm2未満または浸潤面積比20%未満の症例は生物学的悪性所見陰性群44例中38例(86.4%)を占めていた.⑥病巣の肉眼的観察よりsm浸潤程度の予測が可能であったが,その際は大きさより肉眼形態がより良く浸潤程度を反映していた.
以上より癌腫底の長さ,深部浸潤面積,浸潤面積比は原発巣の生物学的悪性度判定基準として有効であるが,癌腫底の長さは生物学的悪性所見との相関,追加腸切除適応の選択効率ともに他に比し劣っていた.深部浸潤面積,浸潤面積比は生物学的悪性所見との相関,選択効率両面でほぼ満足できる指標であるが,小さな病巣では浸潤面積比がより有効と考えられた.また両指標の組合せにより追加腸切除適応例の選択をより効率的にすることが可能であった.

キーワード
大腸粘膜下浸潤癌, 原発巣の生物学的悪性度判定基準, 浸潤面積, 深部浸潤面積, 浸潤面積比


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。